下働き令嬢は王都に帰還する 2
「お世話になったわね……。メアリー」
この場所に来てから、世間知らずな私にいろいろ教えてくれた見習い神官のメアリー。
下働きだからと言ってさげすむこともなく対等に接してくれたメアリーは、私にとって心のオアシスだった。
これからの境遇を思えば、心配しすぎて夜も眠れなくなりそう。
そして、それ以上にメアリーと別れるのが悲しくてつらい。
ここに来るまでの生活は、みじめで辛くて、孤独だった。
そういう意味では、この場所には贅沢品なんてほとんどないけれど、その分幸せがいっぱいあったように思えた。
「――――何を言っているのルーシア」
「え?」
「どこに行くにも一緒よ! 実は私にも神殿長様から辞令が下りたの。今日から正式な神官。そして、騎士団内の礼拝所勤務に栄転よ?」
まさか、メアリーも一緒に王都に?
たしかに、死と隣り合わせの騎士たちは、信仰を大切にしている人が多いのよね。
だから、騎士団の本拠地の中には、礼拝所があると聞いたことがある。
礼拝所と言っても、王都の騎士団本拠地内のそれは、神殿と言ってもいい規模らしい。
すばらしいわ……。神官たちのあこがれの場所でもあるのよ?
「よかったわ……。それなら、王都に行っても会えるかしら?」
「会えるも何も、ルーシアは騎士団に行くのでしょう?」
「え…………?」
アース様の呪いを解くカギが、なぜか私と手をつなぐことだと分かって、神殿長に告げられた王都行き。でも、訳あり伯爵令嬢の私は、表を歩けない身の上だ。
「…………私」
「大丈夫。私が一緒にいるから」
ギュッと抱きしめてくれたメアリー。
私と同じ日に神殿で勤め始めたメアリーは、文字もかければマナーも身に付けていて、いずれ正式な神官になって王都に行くと思っていた。
「こんなに早く、ルーシアと一緒に王都に行けるなんて……。うれしい」
「え…………?」
赤い髪に人懐っこく見えるそばかすのメアリーが、私のことを真剣な表情で見つめる。
まるで、王都に行くことを望んでいたみたいな言い方に、ひそかに首をかしげた。
「ルーシア嬢!」
その時、後ろから私のことを呼ぶ声がした。
低くて胸の奥にドンと響くような声。
声までかっこよすぎて、振り返ればモフモフが可愛らしすぎて、ドキドキしてしまった。
「アース様……」
「この場所にいる理由があるであろうルーシア嬢を巻き込んですまない。だが、騎士団で丁重にもてなしをする。もしルーシア嬢が嫌でなければ俺の……」
その時私はひらめいた。
そう、騎士団の中で下働きをさせてもらえばいいのよ!
騎士団の中は、機密事項も多く、皆さま口が堅いはず。
私の存在を、騎士の皆さま以外に知られることなく、アース様のお役に立つことが出来るかもしれないわ。
「――――わかりました。私でお力になれるのなら、喜んで王都に参ります」
「…………ありがとう。ルーシア嬢」
「そして、騎士団で下働きをさせていただきますね! 大丈夫、お洗濯ものがたくさんあるでしょう? 私、お洗濯は得意なんです! 水魔法と火魔法を使えますから、洗濯の水もいりませんし、光魔法で水を浄化できるので環境にも優しいのです! 雇っていただけますか?」
「え? 来てくれるだけで十分……」
「雇用いただきありがとうございます!」
やったわ! これで、隠れたままでお仕事できる。
アース様! ありがとうございます。
狼の表情で、どこか困ったようにも見えるアース様に、私は笑いかけたのだった。
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