【電子書籍化記念SS】聖騎士団会議に緊急参戦します
いつも朗らかな聖騎士団の皆さま。
今私は、彼らが集う会議の真っ只中にいます……。
「あの……」
「今回降り注いだ白銀の光についてですが」
口を開きかけた瞬間、レイモンド様が姿を現して机に手をついた。その瞬間、楽しげだった第一部隊の皆さまが緊張感をあらわにする。
「それは……聖女様と団長のお姿の関係についての仮説を検証するということですよね」
「その通りだ。異論は」
まあ……。こんなにも真剣にいつも語り合っているのね。
白銀隊改め聖騎士団の会議はあまりにも有名だ。そこではいつでも国家機密について真剣に議論されていると噂される。
ん? でも、白銀の光が降り注ぐのは私の聖女としての力のせいよね?
全員の視線が私に集中しているのを感じて背筋を伸ばす。
私の緊張を感じたのか、アース様がそっと背中に手を当てた。
「あの……先日、お洗濯をしていたときに聖獣様と戯れてしまったら、しばらく皆さまの制服が光り輝いてしまった件でしょうか」
「それもあるな……しかもあの制服を着ているとスピードが上がったように思えた」
「ディラン様……」
熊のようにたくましいディラン様かあごに手を当ててつぶやいた。
ディラン様の力強い一撃にスピードまで加わったらそれはもう最強なのでは……と私はたくましい二の腕を見つめる。
「弓矢の命中率も上がったようです」
「ロイ様……」
ロイ様の弓矢の腕は王国でも随一。必中と言われるその弓矢の命中率が上がったなら逃げられる獲物などなさそうだ。
「ああ、だがそのとき俺の姿は」
私を抱きしめながらアース様がなぜか苦々しくつぶやく。そう、あの白銀の光が降り注いだ直後、アース様のお姿はモフモフになってしまったらしいのだ。
「しかし、明らかに皆強くなりました」
リザード様が口にすると、アース様以外の全員がうんうん、と首を縦に振った。
アース様が、私を抱きしめながら重々しく息を吐いた。
「確かに、この姿になったからといって、今となっては俺を表沙汰に糾弾するものはいない」
「確かに……お姿が急に変わったというのに、平然と高位貴族に演説を続けるお姿はお見事でした」
ジルベール様がニッコリ微笑んで口にする。
その瞬間、再び会議室は静寂に包まれた。
そう、今回は私が焼いたお菓子に夢中になった聖獣様が、全てを平らげた瞬間、白銀の光が降り注いだのだ。
その光により、王都周辺の魔獣は全て踵を返して走り去ったらしい。
けれど、それと同時に大事な会議中のアース様のお姿も強制的に狼になってしまったらしいのだ。
「……あの、申し訳ありません」
「とりあえず、引き続き検証が必要なようだ」
「……アース様」
私を抱きしめていた腕を緩め、少しの距離を取った瞬間、白銀の光が降り注いでアース様が麗しい人の姿に変わる。
「あ、もふもふ」
残念そうな声を出してしまったことに気が付いて慌ててく口を手で覆う。
「本当に……人の姿に戻るとルーシアだけはいつも残念そうだな」
「すみません」
「謝る必要はない……しかし、聖獣様がルーシアの心の奥底の願いを叶えているのではないかと思ってしまうのは俺だけか?」
「そんなはず……」
ないと言いきれない私とどこか不憫なものを見るような視線をアース様に向ける聖騎士団の皆さま。
この仮説の検証には、もう少し時間がかかりそうだ。




