聖女と聖騎士様 3
今日の護衛はジルベール様です。
扉をノックする音は、少しばかり性急だ。
カチャリと騎士服の飾りと、剣が擦れ合う音がする。音だけでも分かってしまう。
本日の護衛は、ジルベール様だ。
「お久しぶりです。ジルベール様」
「お久しぶりです、聖女様」
私にお辞儀して顔をあげた、すまし顔のジルベール様。
出会った頃は、あんなに、尊大で少し子どもじみた態度だったのが嘘みたいに、騎士らしく優雅な最近のジルベール様。
金の髪と青い瞳。白い聖騎士の服装を身につけると、まさに王子様みたいなジルベール様は、貴族令嬢からも絶大な人気を誇るという。
……ちょっと、置いて行かれたようでさみしい。
「何か言いたいことでも?」
そんなに私という人間はわかりやすいのかしら。
こちらに青い瞳を向けたジルベール様に、私は今の気持ちを伝えてみることにした。
「えっ、なんだか急に大人になってしまって、さみしいと思って……」
「…………」
笑みを浮かべていたジルベール様が、少し眉根を寄せて困ったような寂しそうな顔になった。
……ジルベール様は、隠遁されたご両親の代わりにサンダー侯爵家を引き継ぎ、必死にがんばっているのに。
「あの、ごめんなさ」
「謝るな」
申し分けなさすぎて、思わずうつむいてしまう。
「…………」
「それに大人になっただなんて、上から目線だぞ? もともと俺は、ガキじゃない」
次の瞬間、両方のほっぺたを引っ張られる。
驚いて顔を上げると、ジルベール様がニヤリと笑った。
まるで、以前と何も変わってなんていないみたいに。
「そもそも、サンダー侯爵家は、聖女様を追い出した派閥の筆頭だ。聖女様が気を遣う必要ないだろう」
「へも、ひるへーるははは」
「何言っているかわからないな」
頬から手が離される。
「……でも、ジルベール様は、助けに来てくれました」
こんなに早く、大人になる必要なかったのに。
全てを背負わせてしまったのは、私にも責任があるのに。
ジルベール様の言葉は、優しさだ。でも、それに完全に同意することもできなくて。
「……リリーベルの顔のやけどを治してくれた聖女様を裏切ったサンダー侯爵家が嫌いだった。だが、これからは、恩を返すことが出来る」
「ジルベール様……」
「俺も侯爵家の人間だ。貴族としての振るまいが出来ないわけじゃない。でも、そうだな。もし聖女様が許してくれるなら、二人きりの時だけは」
今度は鼻を摘ままれる。
ひどい扱いだ。でも、その方がジルベール様らしい。
「……今までみたいに」
その時、すごい勢いで駆けてきた聖獣様が、私たちの間に割って入った。
「……さて、職務に励むかな」
聖獣様に視線を奪われ、私が再び顔を上げたときには、もうジルベール様は、騎士にふさわしい、凛々しい表情をして私の斜め後ろに立っていた。
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