聖女と王位 3
降り注いだ銀の星と、聖獣様、そして国王夫妻が追い出した聖女が本物だったという噂は、瞬く間に王国全土に広がった。
貴族たちは、満場一致でアース様の王位継承を認め、神殿は、私を聖女だともう一度認定した。
「ベレーザ様は、こうなることがわかっておられたんですね」
アース様が、少し恨めしそうに、ベレーザ様に声をかける。
中央神殿の神殿長には、私を逃し、長い間匿って下さっていたベレーザ様が、就任した。
その隣には、聖獣様が、ちょこんと鎮座している。
「聖女がルーシアだという神託を受けたのはほかならぬ私ですから。もちろんこの展開も、アースクリフ殿下がいらっしゃることも、知っておりましたとも。まあ、おぼろげにではありましたが、成し遂げられると信じておりましたぞ? 殿下」
「……く」
白いひげを撫でながら、飄々としているベレーザ様。アース様のお気持ちは、分からないでもない。
「しかし、聖女らしくなったではないか、ルーシア」
「神殿長様……」
「ルーシア、神託は完全ではない。だが、ルーシアが聖女として覚醒してくれて嬉しく思っているよ」
そう言って、私を見つめたベレーザ様の瞳は、うっすらと涙で光っている。
家の中に居場所がなかった私のことを、厳しくも優しく見守ってくれたのは、いつもベレーザ様だけだった。
「さあ、ルーシアと一緒に歩いてきてくれるか?」
「……? 私は、祝いの言葉を」
「祝いの言葉については、騎士団が勢ぞろいしているから問題ない」
赤く長い絨毯の先には、いつもと違う制服に身を包んだ、第一騎士団の皆様がいた。
笑顔で手を振るジルベール様の姿と、今日は麗しく優しげな姿を現すレイモンド様。
「アース様、あの制服は?」
「聖女を守る直属部隊に志願してきたので、聖騎士に任命しておいた。ジルベールも、聖女を救った功績があるからな」
聖騎士は、神殿に所属しているはずだ。
神殿からの祝いの言葉を述べる資格はあるのだろう。
「ベレーザ殿のサインも頂きましたよね?」
「ん? 聖騎士を任命するとは聞いておりましたが、人数が多くはないですか?」
「ああ。しかし、一人とは書いてなかったですよね?」
「……確かに」
それだけ告げると、さっさと壇上に上がってしまったアース様。
振り返ったアイスブルーの瞳が、優しげに細められる。まるで、早くこちらにおいで、とでも言うように。
私は、ベレーザ様の腕をそっと引いた。
「ベレーザ様が、お父様だったらなって、いつも思っていたんです」
「年齢的には、祖父だと思うが」
「……一緒に歩いてもらえませんか?」
「昔から、ルーシアのお願いには弱い」
歩いて行く先には、アース様の笑顔がある。
その姿は、もう狼みたいではないけれど、どちらのアース様も、私は大好きだ。
「……アース様」
「ルーシア、君を守り、君の望みを叶えると誓う」
ベレーザ様の手から離れて、アース様の隣に立った私。
「おめでとう!」
堅苦しい祝いの言葉の代わりにとでも言うように、私たちの頭に、聖騎士様達からのシャンパンの雨が降り注いだ。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
最後に、下の☆を押して評価いただけますと、次回作への励みになります。ぜひ、応援お願いします。
それから、誤字報告くださった皆様、いつも助けていただいて、本当にありがとうございます。




