聖女と王位 2
私が、表に飛び出すのとアース様が私の手首をつかんだのは、ほとんど同時だった。
「……ジルベール様」
「ついてきてしまったのか……。仕方がないな」
振り返ったジルベール様は、あきらめたように笑った。すぐにでも、また捕まってしまうと思ったのに、騎士様達は近づいてこない。
「本物の聖女……」
誰かがつぶやいた。
ざわめきが、どんどん大きくなっていく。
騎士様達の漠然としていた疑念と困惑が、確信へと変わっていくみたいに。
そのタイミングを見計らったかのように、私にその体をすり寄せてきた白い狼。
アイスブルーのその瞳と、白い毛並みは、神殿にまつられる聖獣様そのものだ。
その狼の遠吠えとともに、突然降り注ぎはじめた銀の星粒。
見上げているうちに、その星粒はどんどん増えて、目も開けていられないほどまぶしくなる。
「ルーシア」
アース様に、手首を引かれて、気がつけば腕の中にいた。
「本物の聖女はここにいる。選べ」
低くて大きな声ではないのによく響くアース様の声。
ーーーー本物の聖女。
以前の私は、聖女であることを否定したかった。
誰かの役に立ちたいと思うけれど、一人で聖女として生きていくのは辛すぎた。
だから本当は、婚約破棄を告げられ、偽聖女であると、当時王太子だったシュタイン殿下に言い渡されたとき、心からホッとしたのだ。
今になって、そのことに気がついてしまった私は、バラバラと跪いていく騎士様達をどこか他人事のように見つめる。
「祝福を。ルーシア」
シュタイン殿下からは、感じることが出来なかった、王の風格。
その言葉にだけ、聖獣に愛される聖女は従う。
「王国の繁栄を。王国の平和に尽力する皆様に祝福を」
昨日まで見えなかった銀の星。
私には、祝福の力なんて、ないと思っていた。
ううん、ないことにしたかったのかもしれない。
でも今は。
手首から離された手を、私の方から握り返した。
今は、アース様が隣にいてくれるから。
「……アース様。私、がんばりますから」
「……ルーシアは、暴走する。ほどほどにしてくれ」
苦笑いを私に向けたアース様と、言葉を発することがないまま、なぜかぶんぶん頷く聖獣様。
何故だろう、ジルベール様も頷いているし、姿を隠したレイモンド様まで頷いている気配がする。
でも、それは私が役に立たなくてもそばにいてくれる人たちの優しさのようにも思えた。
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