聖獣様と聖女 3
――――力になりたい。支えていきたい。
けれど、それは国母となることだ。
簡単に頷くには、あまりに責任が大きすぎる。
けれど……。それは、きっと私が聖女としてしたかったことだわ。
本当は、高位貴族の怪我だけを治すのではなく、だれにでも聖獣様の力を分け与えたかった。
祈りの内容だけは、私の自由だったから、いつだってみんなのために祈っていた。
(きっと、アース様なら、だれのことでも助けてくれる。素晴らしい国王陛下になる。そうであるなら、今の私の願いは……)
「――――使命などで頷くのはやめてくれ」
「え?」
「聖女だとか、国王だとか、引き合いに出した俺は、卑怯だな」
「あの……」
銀の星が、アース様の周囲を取り囲んでいく。
美しい光の粒の中、一番に輝く星みたいなアース様。
「もう一度やり直してもいいだろうか? 君が、聖女でなくても、どんな存在であっても、好きなんだ。だから、ただのアースとして、結婚を申し込むよ」
「――――っ」
ガラガラと、足元が崩れていくみたいだ。
誰かの役に立ちたいと、アース様の立場を支えたいと、そう思っていたのに。
「あ。本当に……?」
「俺の隣にいてくれるのは、ルーシアがいい」
「――――ただのルーシアは、役に立たないですよ? お洗濯くらいしか、できないです」
「――――ふふ。では、俺のマントを洗濯してくれ」
ガラガラガラガラ。崩れていった不安定な足元。
気がつけば、いつも不安定な狭くて高い場所にいたはずの私は、空から銀の星が降り注ぐ、美しい平らな場所に立っていた。
アース様の背後には、子犬の姿からもう一度白銀の狼になった聖獣様が、背中を伸ばしている。
「毎日……洗濯します」
「妻として?」
「はい! 妻として!」
今度こそ私は、迷うことなくアース様の腕の中に飛び込んだ。
その腕は、もふもふしていない、無骨な騎士様の頼りになる腕だ。
この後の出来事は、まだまだ波乱の連続で、乗り越えなければいけないのだけれど、今は降り注ぐ銀の星であふれた世界で、私たち二人は、ただ抱き合っていた。
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