聖獣様と聖女 2
少し心を落ち着かせようと淹れたのは、月光花のお茶。
甘く香り、その割に渋いそのお茶を低温で淹れてハチミツをたらす。
聖獣様の衝撃がさめてくれば、何か大切なことがあったように思えてくる。
「それで、ルーシアはこれからどうするつもりだ?」
先ほどから、嬢がとれたただのルーシアと呼ばれてドキドキしてしまう。
「私が、聖女な訳ないでしょう」
「ほぼ間違いなく君が聖女なのだが。そして俺は、王位継承権を持っている」
……辺境から王都に戻るまで、荒れ果てた土地を見た。人々は、疲弊していた。
魔獣の被害も……。
私には、結界を張ることと、少しの治癒の力しかない。本物だと言われても戸惑ってしまう。
それでも、目の前にいる人は、確かに王になる人なのだろう。
「私の名が、もしもお役に立つのなら、差し上げます」
王を前にした礼をしようと膝をつきかけたとき、脇の下に手を差し込まれ、子どもみたいに抱き上げられた。
「君に膝をつくのは、俺の方だ。聖女は、聖獣と王の間に立つ存在だから」
高い高いされるかのように、抱き上げられた私は、床に寝転ぶ聖獣様のもふもふのお腹を見た。
(本当に、私が聖女を名乗って、この子が聖獣なんて、大丈夫なのかしら、この国は)
一抹の不安のあと、少しだけお腹のあたりがふわっとする感触とともに床に下ろされて、抱きしめられた。
「ルーシア、意味はわかっているのか」
「ええ。聖女としての使命に、身命をなげうつ覚悟……」
「違う。聖女は王の妻になる決まりだ」
「そ、そうですね?」
それがこの国の不文律だ。
聖獣様が決めた、この国の理だ。
「はぁ……。遠回しでは伝わらないか。君が聖女なら、俺は王になる」
「…………そ、それはつまり?」
ようやく察した私は、我ながら鈍感なのだろう。
アイスブルーの瞳は、まっすぐに私を見つめている。
「俺の妻になってくれ、ルーシア」
告げられたその言葉は、私の恋の成就と同時に、王国の未来の変革を意味していた。
最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。