聖獣様と聖女 1
「……ワフ」
もふもふのアース様と私の間に入り込んだ聖獣様。ということは、聖女をしていたとき、悲しいとき、苦しいときいつも一緒にいてくれた白い子犬は……。
「……聖獣様、だったのですか?」
感動の再会に、アース様から告白された衝撃も思わず薄らいでしまう。
私は、聖獣様に抱きついていた。
頭上からアース様のため息が聞こえて、聖獣様を挟み込んで抱きしめられる。
ダブルもふもふ。至福の時間。
聖獣様の御心に感謝いたします。
私がその言葉を口にしようとした瞬間、アース様が口を開く。
「聖獣様、魔獣に囲まれたあの日、命を助けていただいて感謝しています」
「ワフ……」
「しかし、なぜ俺だったのですか? そして、なぜこの姿に変えたのですか?」
私たちの間から抜け出した聖獣様は、アース様に頭をこすりつけた。
「えっ」
驚いたようなアース様の声と、消えるもふもふの感触。
目の前には、銀の髪にアイスブルーの瞳をした、まるで雪と氷のような冷たい美貌の騎士様がいる。
それにしても、この姿を見ると、最近胸が苦しくなるのはなぜなのかしら……?
「――――俺が、聖獣様の血を引いていると?」
「……え?」
聖獣様は、王家の始祖に力を与えた存在だ。
そして、アース様は、公爵様。つまり、王家の血を継いでいる。
バッと、音がしそうな勢いで振り返ったアース様。
私とアース様は、しばらくの間時が止まってしまったみたいに見つめ合っていた。
――――アース様は、聖獣様の言葉が分かるのかしら?
「ワフ…………」
「――――わかりました」
バサリと、翻ったマント。美しい緋色のそれは、王族だけが身につけることを許される色だ。
「さて、ルーシアが本当の聖女と言うことが証明されたな」
「え? 何を言っておられるのですか?」
「聖獣様が認めたからには、ルーシアが本物に相違ない」
「――――まさか」
だって私は、全属性魔法が使えても、強い魔法は使えない。
聖女が行った祝福は、だれが見てもそうだと分かると言われているけれど、私の目には何も起こっていないようにしか見えない。
「私は、何もできないのに、どうして本物だなんて言えるんですか」
「自覚がないにもほどがある。聖獣様? なぜルーシア自身にだけは、祝福の光が見えないのですか」
いや、三年前にルーシアが、王都から追放される前、聖女の祝福がはっきりとそれと分かるものだったという情報はなかった。
「――――聖獣様」
まっすぐに私の前に歩んできた白い狼。
確かに、聖獣様に違いない。神々しい光は、まるで銀の星が降り注いでいるようにすら思える。
『可愛いルーシア。君は、彼女によく似ている。自信がないところも、自分のことよりも他人を思う気持ちも、そしてその美しい空色の瞳も……』
私の空色の瞳は、初代聖女様の瞳の色だ。
それだけは、周囲から聖女らしいと言われていた。
それだけ言うと、聖獣様はどんどん小さくなっていって、子犬の姿になってしまった。
「聖獣様……?」
なぜだろう、力を使い果たしてしまったようにも見える。
それと同時に、アース様のお姿も、もふもふとした狼と人の間のような姿に戻ってしまった。
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