勘違い聖女譚 2
騎士団の敷地に帰り着くと、まず最初に走り寄ってきたのは、赤い髪をなびかせた神官メアリーだった。そこまで来てやっと、アース様は横抱きにしていた私を下ろしてくれる。
「ルーシア!」
そのまま、勢いよく抱きついてきたメアリーをかろうじて受け止める。
あとは、珍しく気配を現したまま、憔悴した様子のレイモンド様、それに熊みたいな存在感のディラン様はじめ、第一部隊の皆様だ。
それに、レイモンド様と一緒にいるのはジルベール様?
キョトンとしてしまったのは、仕方がないと思う。だって、ジルベール様は、第三部隊。
第三部隊は、国王陛下の近衛部隊としての位置づけだ。
「ジルベール・サンダー卿。なぜここに?」
「聖女様をお助けしようと……。妹の恩人であらせられるので」
恩人という言葉と、どちらかというと精悍さよりかわいらしさが先に立つジルベール様の顔を見つめる。
やっぱり誰かと重なる。
『こんな顔では、誰にも嫁げませんわ……。何の役にも立たないのです、私は』
まだ幼い少女の嘆き。
顔に負ったひどいやけど。
金の髪に青い瞳の少女の傷を癒やしたのは、たしか偽聖女だと断罪されるほんの少し前のことだ。
聖女の力を勝手に使ったと、取り囲んでいた神官達にはひどく怒られたけれど、私は満足だった。
サンダー侯爵家令嬢リリーベル様。
そう、私のお世話をしてくれた金髪碧眼の美少女は、リリーベルと名乗っていた。
彼女は、私の監視役だったのではないだろうか。
「あっ、あの。リリーベル様はご無事ですか?」
「……妹は」
ぎゅっと、ドレスの裾をつかむ。
巻き込んでしまったのではないかと、知らないうちに体が震える。
「ご心配なく。ルーシア様が、心配されるのではないかと思い、確保しております」
レイモンド様が、何でもないことのように言った。でも、確保って。
「レイモンド様……。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「わざと抜け出したわけではないでしょう? そこの、聖獣のせいです」
「せ、聖獣……様?」
冷たい目線のレイモンド様。
その視線の先には、私と同じように灰色のほこりにまみれた白い子犬だ。
「気配を察するのは得意なんだ。まさかとは思っていたが、お前はあの日俺たちの前に現れた白銀の狼、違うか?」
「ワ、ワフ」
困惑したような白い子犬の鳴き声。
レイモンド様が、大真面目に子犬に話しかけているせいで、肯定しているように見えてしまうのが不思議だった。
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