ほこりまみれ聖女と再会 2
進むたびに、むき出しの金具にドレスが引っかかりビリビリと破けていく。
せっかく、リリーベル様が選んでくれたけれど、ほこりまみれで、ボロボロだろうと思う。
「――――待って」
本当に、狭くてギリギリだ。
方向転換もできないから、腕と顔をようやく出口から出したけれど、どうやって出ていいか分からないわ?
天井に近い位置にあったこの穴は、通気口か何かなのだろうか。
一足先に飛び降りた子犬。
上半身だけ、穴から出したけれど、どう降りていいか分からない私。
「――――どうして、そんなことになったんだ」
そのときに、あんなに聞きたかった声が聞こえた。
低くて、心臓を優しく握りつぶしてしまうような甘い声。
ガタガタと、何かを動かす音がして、次の瞬間目の前に眉間にしわを寄せたアース様がいた。
「アース様!」
「レイモンドと一緒に、王都から出るように伝えたはずだが?」
「えっと……。その前に、騎士団第三部隊の皆様が、私を迎えに来てしまってですね……」
それよりも、なんとかしてほしい。
上半身だけ、通気口らしき場所から出して、もがいている私。
想像するだけで、惨めになりそう。
次の瞬間、ずるりと体が引き出され、抱きしめられた。
「――――そうか、俺の詰めが甘かったな」
椅子にのったアース様は、軽々と私の体を抱え上げて、そのまま抱き寄せる。
次の瞬間、一瞬の浮遊感とともに、椅子から降りたアース様に私は抱きしめられていた。
「あの、ものすごく汚れているので……」
顔を拭われる。触れられた部分が熱を持って、顔全体に広がっていく。
ほこりまみれで、ドレスも破けてみすぼらしい私。
けれど、アース様はそんなこと気にもとめていないみたいだ。
愛おしむような、とがめるような視線。
アイスブルーの瞳が、私の瞳をまっすぐにのぞき込む。
「…………どうやってここに来た?」
「あの、白い子犬についてきて」
「――――そうか」
足下で、ぶんぶん尻尾を振っている白い子犬は、どこか自慢げだ。
それにしても……。
「アース様、人間の姿のままなのですね?」
再会するときには、きっとアース様は狼が混ざったもふもふの姿だと思い込んでいた。
けれど、目の前のアース様は、白銀の髪にアイスブルーの瞳、しかも高いところに咲く白い花と柑橘、そしてわずかに香木のいい香りがする騎士様だ。
素敵すぎて、こんなの緊張してしまう。
「…………ひざまくらのおかげかな?」
「ご冗談を」
そんなことを言って、心を和ませてくれるけれど、どう考えてもこの場所で監禁されていたらしいアース様。
そんな場所に、なぜか発動した転移魔法できてしまった私は、捕まっている人間を増やしただけなのかもしれない。
「ああ、聖女の祝福のおかげか」
「私は、聖女じゃ」
次の瞬間、額に口づけされて、私は続けようと思った言葉を忘れてしまう。
柔らかい感触。漂う香り。すべてが、ほかのことはどうでもいいのだと私に思い込ませてしまう。
白い子犬は、私たちの様子をチラチラと見ていたけれど、飽きてしまったのか部屋の角で丸くなってしまった。
結局のところ、この白い犬が連れてきてくれたということで、いいのかしら?
「少なくとも、俺の聖女はルーシアだけだ」
「――――そんなこと言って。心配、したんですからね?」
「ああ。問題は、まだ解決していないな」
ここがどこなのかも分からないのに、アース様と白い子犬はどこか余裕だ。
一人理解が追いつかないまま、私はいつまでも、アース様の腕の中に囚われていた。