ほこりまみれ聖女と再会 1
とりあえず、魔法で水を出して、お湯を沸かす
……うん、人肌。
続いてプルプルと震えている白い子犬に少しずつお湯を掛ける。
あっという間に、子犬を入れているたらいの中のお湯がグレーに染まっていく。
……いったいどこを通ってきたら、こんなことになるのかしら?
騎士達と一緒に、見かけたときには、まばゆいばかりの白銀だったはずなのに。
「キュゥン……」
ぺったんこになってしまった子犬は、思ったよりも、痩せ細っている。
「ご飯食べてるのかな?」
本当は、飼ってあげたいけれど、今の私は王宮にしても騎士団にしても定住しているわけではない。
中途半端なことをするわけにも……。
「……あなたは、いつか会った、あの白い子犬の弟?」
その言葉を投げかけた瞬間、アイスブルーの瞳が、私の瞳をまっすぐに捕らえた。
「……わぷっ!」
泡を落とした途端、子犬はブルブルッと、体を震わし、私の服はびしょ濡れになる。
そして、まるでついてこいとでも言うように、走り出す。私の方を何度も振り返りながら。
「え?」
壁の前で、白い子犬が消える。
残るのは、魔力の残影のみ。
私は、子犬が消えた壁にそっと手を触れた。
その瞬間、空間がゆがむ。
まるで、強すぎるめまいのように、立っているのも難しくなる。
「……っ!」
「え、なに?」
遠くで聞こえるのは、大好きなあの声だ。
もふもふした触感、優しい笑顔、凜々しい立ち姿。
いつの間に、声まで大好きになったのかしら……?
ドサリと、冷たい床に投げ出される。
冷たくて堅いはずの床が、まるで海面みたいにゆらゆら揺れている。
「う……」
顔を上げると、そこは人が這いずってようやく通れるような細い通路だった。
通路の先に、か細く見える光と、吹き抜けるような空気の流れが、どこかに繋がっていることを私に教える。
「ここを通ってきたのね」
せっかく洗ったはずの子犬が、モップのように積もったほこりをその身にまぶしながら、前へと進んでいくのが見えた。
ーーーー前に進む以外の選択肢はないみたい。
私の後ろに広がるのは、真っ暗な闇だけだ。
たぶん、このまま後ずさったところで、さっきの部屋に帰ることは出来ないだろう。
だって、さっき発動したのは、明らかに転移魔法なのだから。
いつも冷静なレイモンド様の、驚愕した顔が脳裏に浮かぶ。
確実に、心配させてしまう……。
それに、リリーベル様は、私を逃がしてしまったとお叱りを受けるかもしれないわ。
でも、私にとってもこんな状況は、予想外だ。
早く早く、と急かすようにこちらを向いてお座りした、再びグレーに汚れてしまった子犬。
湿っていた分、先ほどよりも汚れの吸着がすごい。
私は、意を決して、そしてあきらめ半分、前に進むことにした。
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