呪いのモフモフと下働き令嬢 4
仕事終わりに、神殿長様にお呼び出しされた。
なにか、大失敗してしまったかしらと、内心の動揺を隠しつつ、扉をノックする。
「入りなさい」
神殿長様の声は、心の鐘を響かせてしまうような、なんともいえない独特の響き。思わずお祈りしたくなるのよね。
「失礼いたします。ルーシアです」
「よくきたね。顔を上げなさい」
入室してすぐに、優雅に礼をし、お許しが出たので顔を上げる。
「あっ……?!」
神殿長様の後ろには、先ほどお会いした白銀の毛並みのアース様と、グレーの癖のある髪と、青い瞳をした優しそうな騎士様が立っていた。
「……あのっ、私なにか粗相をいたしましたか?」
私が慌ててお詫びの言葉を続けようとすると、アース様ともう一人の騎士様は顔を見合わせた。
神殿長様は、笑顔だ。
あれ? 何か大失敗をしてしまったのでは、なかったの?
「むしろ、ルーシアの心遣いに、アース殿はとても感動されている。滞在期間が長くなりそうなので、引き続き身の回りのお世話をルーシアに頼もうと思ってね」
白くて長い髭をゆるゆると撫でながら、相変わらず心に響き渡る声で告げる神殿長様。
よかった……。貴族と聞いていたもの。機嫌を損ねてしまったら、皆さんに迷惑がかかってしまう。
「頼めるかな?」
「はい。私でよろしければ、お力にならせてください」
ほっと息をついたような音が聞こえた。
まさか、断られるとでも思っていたのかしら。
貴族にしては、高慢な印象もないし、こんな状況でも周りに当たり散らすこともない。
アース様は、とても人間ができた方なのね。
感心しながら、この辺境の神殿でアース様ともうお一人の騎士様が快適に過ごせるように、尽くそうと心に決める。
「それでは、早速ですが、滞在されるお部屋の支度をしてまいりますね?」
「……ルーシア、その前に。月光花のお茶の残りはあるかな?」
ぴたりと動きを止めて、神殿長様と目を合わせる。
「あの……。あと少しですが」
隠していたわけではないけれど、高価なお茶を持っていたことを怒っているのかしら?
「……すまないが、追加で購入が必要かもしれない。残りのお茶を、私たち三人に淹れてもらえるかな?」
あら。神殿長様も、月光花のお茶が飲みたかったのですね?
「はい! よろこんで! 少しだけお待ちいただけますか?」
「ああ。それまで、三人で話をしているから急がなくてもいい」
「かしこまりました」
ペコリとお辞儀をして、戸棚に向かう。
たしかに、月光花のお茶は、澱んでしまった体を清浄してくれる。
味が渋いのが難点だけれど、魔法を使う人間にとっては、とても役に立つ。
きっと、神殿長様も呪いを解くために力を使ってお疲れなのね……。
丁寧に淹れよう。いつもお世話になっている神殿長様と、王国のために戦ってくださる騎士様のために。
私は、限界まで背伸びして、もう一度月光花のお茶が入った茶缶を取り出した。
そうそう、アース様の分は冷たくして、渋みを誤魔化すために少し多めに蜂蜜を入れましょう。
私は、魔法を使ってお湯を沸かすと、いそいそと月光花のお茶を入れ始めた。
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