聖女は囚われていることに気がつかない 2
意外にも快適なベッドの中、横になった私は、なかなか眠ることができずにゴロゴロと寝返りを打っていた。
もしかすると、もふもふの感触がないと寝られない体になってしまったのかもしれない。
レイモンド様は、部屋から出て、扉の横に体を預けて立ったまま眠っているらしい。
この部屋で休んでほしいと頼んだけれど「――――そんなことしたら、殺されます」と、お断りされてしまった。
――――一体誰に? 謎が謎を呼ぶ。
「ふう……」
ここは、東の離宮だ。
かつて、聖女と結婚しながらも、ほかの令嬢と恋に落ちてしまった王族が、側室を迎え入れた場所。
そこに、私をわざわざ連れてきた意図が不明だ。
――――偽聖女を、今になって連れてきて、生き残っていたと断罪するわけでもなく、会おうとする訳でもない。意図が分からないわ……?
そして、それよりも何よりも、アース様が心配だ。
結局、この時間になっても、私とアース様は会えない。
つまりアース様は、すでにもふもふした、半狼の姿になってしまっている可能性が高いのだ。
「どうしよう……」
本当は、レイモンド様は、アース様を探しに行くべきなのだ。
それなのに、私がこんな場所に連れてこられたせいで、そして偽聖女である私をかくまったせいで、この場所から動くことができない。
「――――私」
私にできること。いつもそれを探して、生きてきた。
だから、何もできないこの状況が、私にはとてもつらく感じられる。
役に立たなければ……。
そう、誰かの役に立てなければ、私は。
『――――いや。これは命令ではない。ただのお願いだ』
自分のふがいなさに、落ち込んで、気分が底の底に沈みかけた私の脳裏に、ふいにアース様の声が響く。
「…………アース様」
アース様は、私に役に立てとは言わなかった。
お願いだ、とそう言っただけで……。
そうですよね。役に立つ、立てないよりも。
くっと、顔を上げる。
運の良いことに、ここは王宮だ。
アース様は、両陛下と会った。そこまでは間違いないもの。
抜け出そうとして、そっとドアを開けると、気配を消していないレイモンド様が笑顔で立っていた。
明らかに、ここから出してくれることはないようだ。
早々にこの包囲網を突破することを諦めた私は、音もなく閉められた扉に背を向けて、すごすごとふかふかのベッドに、戻ったのだった。
聖女は囚われてしまったようです。主に味方に。
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