聖女は囚われていることに気がつかない 1
王宮に入って連れて行かれた先は、両陛下の御前でもなければ、地下牢でもなかった。
一分の隙もなく整えられたベッド。淡い桃色と白にそろえられた、かわいらしい印象の室内。
「――――あれ?」
「聖女様…………」
振り返ると、私を連れてきた騎士様達の姿は見えなくなって、ジルベール様が一人立っていた。
レイモンド様は、もちろん気配を完全に消したまま、この室内に入ってきている。カチャンと剣をさやから抜くときの音が、静かな室内に響く。
ジルベール様は、一瞬のその音に気がつかなかったのか、それとも気がついていて知らないふりをしているのか、私に話しかけてくる。
「聖女様、今までの無礼をお許しください」
「あの? 聖女様って」
あ、しまった。第一部隊の皆様を巻き込まないために、聖女としての振る舞いをして、悪女を演出するつもりだったのだわ。ここは、全力で乗るところなのかもしれないわ。
「あっ。…………ジルベール・サンダー卿。許可もなく部屋に入るとは、何事ですか?」
できるだけ尊大に、高潔に。
やればできるのだ。だって、子どもの頃に聖女として選ばれてから、そういう風に振る舞わないと、神殿長ベレーザ様にとっても怒られたから。
「――――あなたの監視を言い渡されています。俺の家は、国王派の筆頭ですので」
サンダー侯爵家は、たしかにどの家よりも、両陛下の婚姻に積極的に動いていた。
私のことを偽聖女だといの一番に糾弾してきたのは、ジルベール様のお父様だったのよね……。
「…………そうですか。好きになさい?」
レイモンド様が、呆然とこちらを見つめている気配がする。
私だって、やればできるのですよ。……外側だけですけれど。
「――――聖女様。手はずを整えておきますから」
「え? ジルベール様?」
ひざまずこうとしたジルベール様を、一瞬だけ気配を表したレイモンド様が制した。
何の手はずですか? 全く話が見えません。
「――――やはり、護衛がついていましたか。第一部隊隊長殿」
「ここは、いつ誰が入ってくるか分からない。余計な発言や行動をするな」
それだけ言うと、レイモンド様は気配を消した。便利だわ……。
それにしても、二人はいつの間に仲良く会話する間柄になったのかしら?
「あの……」
「「俺たちにお任せください」」
えぇ。レイモンド様は通常運転だけれど、ジルベール様、毎日私のお洗濯を邪魔しにきていたのに、急に態度を変えてどうしちゃったんですか……。
不満げな私に、二人が再びささやく。
「「余計な行動は控えてください」」
えぇ。言葉がそっくりそのまま重なっていますけど。
そこまで、仲良くなっておいて、どうしてジルベール様は苦虫を噛み潰したような顔をしてレイモンド様がいる方を見ているんですか?
ハッキリとしないけれど、多分レイモンド様もそんな顔してそうです……。仲良しですか?
こうして、なぜか予想外の好待遇を受けながら、二人の騎士様に見守られての、私の偽聖女生活は幕を開けたのだった。
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