偽聖女の祝福 3
アース様が帰ってこなかった夜遅く、レイモンド様が部屋を訪れた。
何が起こったかなんて考えたくない。だって……。
「――――アース様は、どこに行ったのですか?」
「…………」
魔力の流れから、いる気配はするのに、はっきり姿を見せないレイモンド様は、答えてくれない。
でも、いまだ現国王シュタイン・スタンベール殿下と聖女である私の義妹、王妃ローゼリア殿下には、まだ御子に恵まれていない。
先王陛下の年が離れた弟のアース様は、現在王位継承権第一位を持つのだ。
「――――シュタイン陛下の元に行かれたのですか?」
おそらく、公爵であるアース様を引き留めることが出来るのは、シュタイン陛下しかいないだろう。
芽生え始めた疑問は、はっきりいって恐ろしいし、肯定したくはない。
だって、もしそれが真実なのだとすれば、私が、アース様を巻き込んでしまったということになるもの……。でも、それでも、聞かないわけにはいかない。
「…………私の存在が、両殿下の耳に入りましたか?」
「どうして…………」
レイモンド様は、それだけ口にして、すぐに口を閉ざした。
けれど、私は確信してしまった。
どうして、知られてしまったのかは分からないけれど、確実に義妹とシュタイン陛下は私の存在が、ここにあることを知ってしまったのだ。
――――どうして、言ってくれないんですか!
苦しくて、悲しくて、胸が締め付けられるのに、泣くこともできない。
アース様は、巻き込んだと私に告げたけれど、逆だった。アース様を巻き込んでしまったのは、私の方だ。
「レイモンド様は、アース様からどんな指令を受けましたか?」
「…………ルーシア様を、辺境の神殿長ベレーザ殿のところにお連れするようにと」
「――――私が、生きていることが分かってしまったのですから、逃げても無駄です。神殿長ベレーザ様への恩を仇で返すわけにはいきません」
「――――しかし、俺はルーシア様を」
守ってくれるというのだろう。けれど、レイモンド様も、すでに私にとって大事な存在だ。
この場所にいる騎士の皆様をこれ以上巻き込むわけにはいかない。
その時、激しい足音がした。
足音はどんどん近づいてくる。
扉が乱暴に開かれて、私に近づいてきたのは、白い騎士服に身を包んだ第三部隊の騎士達だ。
王族の近衛として、主に王宮内の警備を任されている第三部隊は、前線で戦い続ける第一部隊とは対照的に、貴族達で構成されている。
「偽聖女ルーレティシア・マルベルク。来てもらおう」
気配を消したまま、剣に手を掛けたレイモンド様を目で制す。
こうなってしまった以上、騒ぎを起こしてしまったら、第一部隊全員が処罰されかねない。
――――黙ってついて行っても、きっと私のことをかくまっていたと言われてしまう。
第三部隊の後方には、ジルベール様がいた。
顔色が悪いわ。偽聖女なんかと関わってしまったことに気がついて、ショックを受けているのかしら。
ふぅ。と息を吐いて、私はできる限り優雅に礼をした。
騎士達が、乱暴に私の肩を掴もうとしていた手を思わず下げる。
「――――参ります」
アース様を助けるためにも、私は正体を偽って、皆様をだました悪女を演じてみせるわ!
私は、そう心に決めて、騎士達に触れられるのを拒否したまま、前を向いてまっすぐに歩き出した。
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