偽聖女の祝福 2
「お、おはようございます」
「ああ、おはよう?」
モフモフした肌触りの腕。
少しシャツがめくれたせいで、まさにもふもふに埋もれてぐっすり快眠だった私。
「あの」
「今日、検証しておく。それでいいだろう?」
こんな時にまで、気を遣ってくれるなんて本当に申し訳なくなる。
今日もまた、私が暴走してしまったせいで、迷惑を掛けてしまったわ。
「俺は、得しただけだが?」
「えっ、なんで……」
……今、口に出していましたか?
「顔に書いてある」
そろそろと起き上がる私の手をつかんだままのアース様。
「わからないのか?」
「わかりません……」
「そうか……」
そのまま、なぜか恋人みたいに指先を絡めて手がつながれる。
温かいもふもふとした手触り。
なぜか、心臓がドクドクと派手な音を立てて拍動する。
「アース様」
「検証するのだろう? それに、今日は帰りが遅くなりそうなんだ。出かける直前まで、触れていたい」
そう言われてしまえば、私には断る理由なんてない。でも、検証するのなら一種類ずつでないと差がわからなくなると思うのだけれど?
じっと見つめていた私の視線に気がついたのか、アース様はそのまま私の手に鼻先を寄せた。
少しひんやりと湿った鼻先。
「……もしもの話だが」
鼻先を寄せたまま、アース様がつぶやく。
「もし、明日変身してしまう頃までに俺が帰らなかったなら、レイモンドがこの部屋に来る手はずだ。そのまま、ここから出られるように念のため準備をしていてくれ」
「えっ?」
「俺の都合で、王都まで……。巻き込んですまない」
それだけ告げて、私から離れたアース様は、しばらくすると美貌の騎士様に姿を変えた。
聞きたくなかった言葉。私は、返事も出来ないままその背中を見送る。
……見送る? こんな不安な気持ちのまま?
「待って下さい!」
「ルーシア嬢?」
何も考えられないまま、アース様の背中にすがりついていた。
迷惑に違いない、でもそうせずにいられない。
「お願いですから、そんなこと言っていなくならないで下さい!」
「……ああ、すまなかった。不安にさせたか?」
もちろん私は、不安になったけれど……。
「そうだな、それなら祝福をくれるか?」
「え? ……それは」
たしかに私は、祝福の方法を知っている。けれど、私は偽聖女だから、そんなのただのおまじないでしかない。
それなのに、アース様は私の前に額を差し出すように、ひざまずいた。
「お願いだ」
「あの、偽物なので意味なんてないですよ?」
「俺は、君からの祝福がほしいんだ」
唇を額に押しつけた。
やっぱり何も起こらないのに、なぜが離れたあと、アース様はしばらくの間、虚空を見つめていた。
そして、その日、夕方になっても、夜が来ても、アース様は帰ってこなかった。
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