呪いのモフモフと下働き令嬢 3
思ったよりも、時間がかからなくてよかった。
洗濯物のかごを抱えて、もう一度パシパシと広げながら干し始める。
神殿長様は、今頃モフモフの呪いを治療しているかしら。
「……はぁ」
ほんの少しだけ、あの極上のモフモフ触感が惜しいと思ってしまった。
……だめだめ! アース様のお立場から考えて、そんな考えとんでもないわ!
ぶんぶんと、首を振りながら洗濯物を干していると、通り過ぎる神官たちが怪訝そうにこちらを見る。
たぶん、呪いはすぐに解けるに違いない。
ニコニコしているばかりに見える神殿長様は、十年前まで王都の中央神殿長をしていたお方。
神殿長様に解けない呪いであれば、中央神殿でも苦戦するらしいから。
でも、どうしてアース様は、中央神殿ではなく、こんな辺境の神殿に来たのかしら?
『偽物め。婚約を破棄する!』
「…………」
中央神殿という言葉で、あの言葉を思い出してしまった。
中央神殿から追い出されてしまった私。
あの日から、神殿長様にお世話になりっぱなしだ。
その時、騒がしい足音と、陽気な声がした。
振り返れば、そばかすと赤毛が可愛らしい見習い神官メアリーがこちらに駆けてくるところだった。
「すごいのよ!」
「……どうしたの。メアリー」
「呪いを解くために来たさっきの騎士様」
「うん」
「ものすごーく、ものすごーく! 美形らしいの!」
さっきの騎士様といえば、もちろんアース様のことよね? たしかに、あの白銀の毛並みは極上の輝きだったと思う。
でも、狼人間みたいな姿のアース様は、美形という感じではなかったわ。
本当に可愛らしかったけれど……。
「あっ! 呪いが解けたんですか?」
「そう。呪いが解けたら、白銀の髪にアイスブルーの瞳の超絶美形だったらしいの!」
「それは、よかったです」
それなら、アース様は王都に戻ることができるのね。少し残念だけれど、本当によかったわ。
……あら、残念なんて。モフモフがとっても素敵だったからかしら?
昔から、モフモフした犬や猫が大好きだった私。
まさか、呪いのせいで動物と人が混ざった見た目になることがあるなんて、本当に驚いたわ。
でも、神話には動物の頭や特徴を持った神様が描かれている。もしかしたら、昔からあったことなのかも。
妙に納得して、また一人頷いていたら、メアリーが深刻な表情になった。
「……どうしたの?」
「ところがね、すぐに元の姿に戻ってしまったんですって」
「えっ?」
神殿長様が、呪いを解こうとしたところ、途中でアース様は、人間に戻ったらしい。
けれど、一分も経たないうちに、またもとの白銀の獣人姿に戻ってしまったそうだ。
どうして人に戻ったのか、なぜすぐに呪われた姿に戻ってしまったのか、全く解明できず、大騒ぎになっているらしい。
このまま、神殿に泊まり込んで、呪いを解く方法を探すことになったアース様。
そして私は、全ての洗濯物を取り込んで、無事しまい込んだ夕方、神殿長様に呼び出された。
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