騎士団長様……ですか 1
「おい。誘ってやっているんだ。一番いい席を取ったんだぞ?」
金髪碧眼の新人騎士様が手に持っているのは、なかなか手に入らないという噂の歌劇団の公演チケットだ。しかも、ボックス席。
「……その日、お休みではないので」
「休め。そんなの関係な……」
最近、妙に強引な騎士様が多いのよね……。
お仕事が進まなくて困るわ?
特にこちらの騎士様は、なぜか毎日いらっしゃるのよね。
ほぅ……。と息を吐く。
まだ、洗濯物の山が、かごに積まれたままなのに。
「は? なんでこんなところに……」
「え?」
次の瞬間、私の背後から真上に上がりつつある日を遮って長い影が差した。
「ジルベール・サンダー。報告を受けてはいたが、騎士としての立ち居振る舞いとしてはいかがなものか」
振り返った視線の先には、アース様がいた。
「サーシェス騎士団長……」
ジルベール様という名前なのね。
今まで名前も聞いていなかったことに我ながら驚く。こんなに毎日、訪れていたのに失礼なことをしてしまったかしら?
でも、それよりも何よりも、アース様が呼ばれた、その名称を聞いて私は凍りつく。
いくら私が、中央神殿で祈ってばかりだったとしても、マルベルク伯爵家でつまはじきにされて社交界に疎いとしても、さすがにその名前くらいは知っている。
む、むしろ、なぜ今までこの姿とアース様の名前から、関連付けられなかったのかしら。
「アースクリフ・サーシェス騎士団長」
見上げたアース様は、いたずらが見つかったような、いかにもばつが悪いというような顔をしている。
貴族様だとは思っていたけれど、まさか公爵様だとは、誰が思うだろう。
私の知っている、高位貴族や王族とは、何もかもが違う。
でも、でも! 知らなかったとはいえ、あまりに無礼だったのではなくて?!
「……あっあの、サーシェス卿……。今までの」
ご無礼をお許しいただけますか? という言葉は、困ったように、けれど謝罪を拒絶するかのように緩く振られた首に否定される。
本当に一瞬だけ私に向けられた視線は、なぜかすがるように見えた。気のせいだとは、思いますけれど。
まるで、そんな視線なんてなかったかのように、アース様は、身長差のあるジルベール様を見下ろす。
「さて、ジルベール。貴様は鍛え直す必要がありそうだな?」
鬼……失礼な呼び名ね。王国の剣を体現するとも言われる騎士団長サーシェス卿。
確かに、凱旋すれば、一番の英雄だわ。
「えっ、ええ?!」
去ってしまう後ろ姿を見送って、私は衝撃の事実に大混乱なのだった。
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