騎士団第一部隊の下働き令嬢 3
洗濯物がよく乾きそうな爽やかな風と青い空に、シーツの白い海がバサバサと波立っている。
優しそうな女性は、けれど凛と背筋を伸ばして、少し厳しさも感じさせながら、こちらに目を向ける。
この方はきっと、仕事に誇りを持っているのに違いないわ。
私は、そう一人頷く。その考えは、おそらく間違ってはいない。
「……はじめまして。本日からお世話になる、ルーシアと申します」
お辞儀……。普通のお辞儀。うん、普通って何かしら?
混乱した結果、ピョコンッと、勢いよく頭を下げてしまった。
うぅ……。失礼だったのでは?
やっぱりもう少し丁寧なお辞儀がよかったのではないかしら?
けれど、頭を下げたままチラリと横目でメアリーを見たところ、軽く頷いてメアリーも挨拶を続けた。
なるほど、こういう感じでいいのね?
これからは、周囲の様子をもう少し観察して、違和感を感じられないように頑張ろうと、密かに誓う。
「はじめまして。メイド長のマリエスといいます。これからの働きに期待しているわ。辺境ノーザンリリーの神殿で働いていたのよね?」
「はい、そうです」
「そう、それなら細かい説明は不要かしら? 持ち場に案内するから、一緒にいらっしゃい」
「はい。よろしくお願いいたします」
私が元気に返事をすると、マリエスさんはにっこりと微笑んだ。厳しい雰囲気が、春の雪解けのようにその瞬間だけなりを潜める。
「メアリーさんは、昨日説明した持ち場に行ってちょうだい」
「はい。それじゃあ、またね?」
「ええ、またね。ありがとう、メアリー」
私より一足早く働き始めていたらしいメアリー。
そうよね、私は昨日部屋にいたから、すでに一日先輩なのだわ。
私も、早くここでの仕事をしっかり覚えて、頑張らなくては。
シーツや、騎士服が干してあった少し先に、私の新しい職場はあった。
「さ、ここで頑張るのよ。わからないことは、周りに聞いてね? 困ったことがあれば、騎士団本部の建物にいるわ。訪ねてきなさい」
「お忙しいのに、ありがとうございました」
「――――いいえ。本当に、何かあったらすぐ来るのよ? もしも、騎士達に困らされたら、騎士団長に相談してあげるわ」
「はい、わかりました」
メイド長マリエスさんの背中を見送る。王国騎士団の騎士様達に困らされる場面は、あまり想像できないけれど、下働きの私にまで気を遣ってくれるなんて、心配りが素晴らしいわ。
…………かっこいい人だったな。あんな大人になりたい。
騎士団での私の下働きのお仕事は、こうして幕を開けた。
まさか、本当に騎士団長に相談しなくてはいけない出来事が起こるなんて、想像することもできないままに。
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