騎士団第一部隊の下働き令嬢 2
なぜか黙ってしまったメアリー。
私が、誰かと話をしたときに、時々こんな風になってしまう。
もしかすると、私は気がつかないうちに失礼な行動をとっているのかしら……?
「あの、メアリー」
「……ルーシアは、隠す気があるのですか?」
「え? なにを……」
今度こそ盛大なため息が聞こえる。
真剣な瞳のメアリーが、金茶色の瞳に真剣な色を宿して、私のことを見つめた。
「――――ルーシアは、貴族であることを隠す気はあるのですか?」
「え? だって、下働きよ? 洗濯や掃除ばかりしている貴族なんていないわ」
下働きをしている時点で、貴族令嬢などと疑われることは、まず、ないように思えるのだけれど?
メアリーの言葉が、上手く理解できなくて、私は首を傾げる。
私の様子を見て、わかっていないことを察したメアリーが、言葉をつづける。
「…………たとえば、いつも初対面の時にするお辞儀。高位貴族の令嬢でないとできない所作です」
「え?」
「頭を下げるだけでいいんです! あんな、いかにも厳しいマナー教育を受けていますという令嬢の所作でお辞儀をしていたら、すぐに貴族だって気がつかれてしまいますよ?!」
「まあ……」
隠していたつもりだったのに、そんなところで気がつかれてしまうなんて……。それは盲点だったわ?
たしかに、この場所は王都。いつ、王族の耳に私が生きていて、しかも戻ってきていることが気がつかれてもおかしくない。
――――危機管理がなっていなかったのね。
「わかりました。騎士団の皆様やメアリーに迷惑を掛けないように、精一杯頑張りますわ!」
「逆に心配になってしまうのは、なぜなの」
メアリーの言葉は、あまりに小さいから私には聞こえない。
「さ、早く行きましょう! 自己紹介を今度こそ完璧にこなしてみせるわ!」
「え……心配しかできないのは、なぜなの」
意気揚々と歩む私。
だって、これからお仕事ができる。
騎士団のお洗濯だなんて、さぞややりがいがあるに違いないもの。
「……私がついていないと」
「メアリー?」
「今、行きますよ」
そうこうしているうちに、ようやく私たちは、指定された場所に着いた。
たくさんのシーツが干されている。
そして、陰乾しされているのは、戦闘や訓練で着用する飾り気の少ない黒い騎士服。
「わあ! やりがいがありそうです!」
「あなたが、ルーシア?」
感動していると、不意に声をかけられる。
振り向くと、そこには私とおそろいのお仕着せの、優しそうな女性が笑顔で立っていた。
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