騎士団第一部隊の下働き令嬢 1
翌日、ようやく騎士団の下働きとして働くことが許された私。
意気揚々と仕事場へと向かう。
今日の付き添いは、メアリーだ。
騎士団内の礼拝所に配属されたはずなのに、なぜか私の隣の部屋だったメアリー。
礼拝所の神官たちが住む場所が、満室だったということだけれど、今日も私と一緒にいていいのかしら……?
「あの、メアリー……」
「どうしました? ルーシア」
そばかすのせいで、活発に見えるメアリーが微笑みながら、赤毛を揺らした。
相変わらずかわいらしくて性格もいいメアリー。紺色のワンピースに白い襟の礼拝所の神官の制服もよく似合っている。
礼拝所でもすぐになじむのが間違いない。
「あの……。私なんかと一緒にいていいの?」
私の言葉に、ほんの少し首をかしげたメアリー。ふんわりと赤毛が揺れる。
そして、私の言葉の意味をようやく理解したとでも言うように、白い両手をぽんっと合わせた。
「あら、知らなかったのですね? 新入りの神官は、下働きから始める決まりになっているのですよ? 辺境の神殿でもそうでしたよね?」
「えっ、あの……。そうだったの? では、またしばらく一緒に過ごせるの?」
コクリと頷いたメアリーに、うれしくなってしまった私は思わず抱きつく。
本当は、今まで聖女としても、伯爵家令嬢としてもいい思い出のない王都に来て、心細かったのだ。
「うれしい!! メアリーと一緒にいられるなんて……」
「あらあら。ルーシアは甘えんぼですね?」
そういいながらも、ニコニコと笑顔のメアリーもうれしそうに見えるのは、私の願望がそう見せているのかしら?
「でも。私もルーシアとこれからも過ごせることが、とても、とてもうれしいわ」
「っ! メアリー」
二人でしばらく抱き合っていた。
早朝のまだ冷たい空気の中、周囲には誰もいないと思っていたのに、その声は急に背後から降ってきた。
「あれ……? 見かけない顔だね。新しい神官さんと、従業員の子?」
振り返ると、そこには薄紫の髪と瞳をした、騎士服をまとった男性がいた。
ここは、第一部隊の隊員しか出入りを許されていないと、レイモンド様から説明を受けている。
つまり、目の前の男性も、第一部隊の騎士様ということなのだろうか……。
悪い人ではなさそう。ほの暗い感じを受けないもの。
でも、なぜかしら? なんとなく、危険な香りがするような?
「二人ともかわいいね? 俺は、王立騎士団第一部隊隊員のリザードだ。よろしく」
「あの、私は……」
そのときメアリーが私の前にずいっと立ち塞がった。
背中しか見えないから、表情はわからないけれど、メアリーの魔力が警戒しているように周囲を取り囲んでいる。
「お初にお目にかかります。このたび、騎士団礼拝所に配属されました神官メアリーです」
「はじめまして? それで、後ろにいるご令嬢は」
「――――下働きのルーシアです」
「ふーん? ……下働き?」
そうよね! 下働きなのに、騎士様にご挨拶されて、まだ返答もしていないなんて、失礼にもほどがあるわ。
私は、制服のスカートの端をつまんで、礼をする。
「ご挨拶が遅れて失礼いたしました。ルーシアと申します。こちらで働くことになりました。ご用があればなんなりと申しつけてください」
「…………こちらこそ。困ったことがあったら、何でも言ってね? ルーシアちゃん」
それだけ言うと、リザード様は、手をひらひらと振りながら背中を向けて去って行ってしまった。
なんというか、距離の近い人だったわね?
……でも、悪い人ではなさそう。
そんなことを思って、私はリザード様の背中を見送る。
隣では、なぜかメアリーがため息をついていた。
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