第一部隊会議(アースside)2
第一部隊のメンバーは、王国の精鋭だ。
それ故に、偽物だとして先代の聖女が資格を剥奪されて以降、急に激化した魔獣との戦いに身を投じてきた。
だからこそ、聖女を探し続けてきたのだ。
それでも、ルーレティシア・マルベルク伯爵令嬢は見つからず、すでに死亡したのではないかとさえ推測されていた。
「辺境の神殿長ベレーザ殿が隠していたとはな……」
いや、ルーシア嬢を聖女として見いだしたのが、ベレーザ殿といっても過言ではない。
つまり、この展開を予想して、中央神殿の長としての地位を降りた……。
「いや、考えすぎか」
「団長ぉ……。つまりのところ、聖女様が団長のお姿を元に戻してくださったという認識でいいのですか?」
「――――そうだな。そう考えていいだろう」
ルーシア嬢は、間違いなく本物の聖女。
俺の姿を元に戻すという理由で、王都についてきてくれた彼女は、しかし聖女の地位に執着している様子はなかった。
むしろ、平和な辺境での生活を楽しんでいたようにすら……。
「それで、これからどうするおつもりなのですか?」
思案に暮れていると、急に目の前にグレーの髪と青い瞳が現れる。
声をかけられるまで気がつかなかった。
……気を抜いているときに、目の前に移動しているのやめろ、レイモンド……。
しかし、レイモンドにとっても、わざとではないのだと理解しているから、特にそのことについて俺が触れることもない。
レイモンドの抱える事情を知った人間しかいないこの場所でまで、魔力の無駄遣いをさせるわけにもいかないからな……。
「――――聖女の意向は、表に出ないことのように思える」
「そうでしょうね。あの方は、そういう人でしょう」
ルーシア嬢のことを、知っているようなレイモンドの言葉に、イライラする自分の心の狭さに、内心でため息をつく。
だが、今それよりも大切なのは、ルーシア嬢を守ることだろう。
「……第一部隊内だけの極秘事項だ。王族であっても、この情報を漏らすことは許可しない」
それは、王家に対する叛意を疑われる言葉だ。
だが、レイモンド、ロイ、ディランの三人は、一言も発することがないまま、左手を心臓に添えて俺に忠誠を誓った。
「聖女は、下働きとして騎士団に雇われることになった」
無表情のままのレイモンドを除き、ロイとディランが目をまん丸に見開いた。
歴戦の猛者たちのこんな顔を見ることなんて、一生に数回もないだろう。
「――――まさか、さっき出会ったお嬢ちゃんか?」
たしかに、ディランはすでにルーシア嬢と出会っている。
そのことはすでに、レイモンドから報告を受けた。
「え? まだ、会っていないの俺だけですか?」
ロイが、どこか悔しそうにそうつぶやいた。
年齢も近く、温和な顔をしたロイは、いかにもルーシア嬢と会話が弾みそうだ。
なんとなく、会わせたくないな。
「――――ロイには、この後、紹介する。あくまで、新しい騎士団の下働きとしてだ。普段はそのように接しつつ、必ず守りきるように」
「――――了解いたしました」
騎士団でも、女性たちに人気があるロイ。
すべての人間に平等に接するロイであれば、新しい下働きとして騎士団に入ったルーシア嬢のそばにいたとしても、誰も違和感を抱かないだろう。
――――俺は、しばらく、人前での接触は避けることになるか。
そのことを残念に思っている自分がいる。
それでも、夜には一緒に過ごすことができるに違いない。
たとえ、その姿が人間のそれではないにしても……。
結局のところ、残りの三人は、会議終了までに現れなかった。
伝達に関しては、レイモンドに任せて、この後に備える必要があるだろう。
ここまでで、俺の姿は白い毛に覆われた、狼が混ざった姿へと変化した。
すでに見慣れてしまったらしい三人は、特にそのことに反応することもない。
順応力が高いというか、異常事態になれているというか……。
けれど、今はそのことがとてもありがたく感じるのだった。
最後までご覧いただきありがとうございます。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。
それから、誤字報告いつもありがとうございます。