下働き令嬢の帰還と騎士団第一部隊 4
レイモンド様が案内してくださった部屋は、ベッドと可愛らしいライティングデスクが一つ置いてある、ごくシンプルな部屋だった。
けれど、ベッドカバーにはレースがほんの少し添えられていて、可愛らしい雰囲気だ。
「狭くて申し訳ないのですが」
「っ、最高です!」
中央神殿では、固くてなぜか冷たいベッドに、修行だと言って寝かされていたし、辺境の神殿ではメアリーと相部屋だった。
こんな素敵な一人部屋を使っていいだなんて、ここは天国なのかしら?!
胸の前で手を組んで、キラキラの瞳で新しい部屋を見つめる私。
「まぁ、そういう反応だろうと予想はしていましたが……」
それだけ呟いて、レイモンド様が、気配を消す。
王都に入ってから、魔力の流れを常時追っているから見失ったりしないけれど……。
「……あの、常時気配を消しているの、しんどくないのですか?」
「っ! ……それは」
あっ、よくわからないけれど、明らかに聞いてはいけない話題に踏み込んだ空気?!
どうしよう。レイモンド様を困らせてしまったみたい。
「あっ、あのその! ご、ごめんなさ」
そんな私を、レイモンド様の優しげな青い瞳がまっすぐ見つめる。
整った唇が、弧を描いて笑顔を作り上げる。
ぽんっ。
頭に乗せられた手は、予想以上に温かくて、優しい。そしてすぐに離れていく。
「……なぜ謝るんですか? こちらこそ、あなたが感情の変化に敏感だということを忘れていたようです」
「レイモンド様……」
だって、レイモンド様は笑っているけれど、とても笑えるような雰囲気ではなかったわ?
何かとてもそのことで苦しんだとでもいうような……。
「まあ、大丈夫です。魔力消費という点で言えば、気配を消した状態の方が楽なんですよ、俺の場合は」
「そ、そうなんですか?」
気配を遮断する魔法は、難易度が高くて魔力消費が大きいはずなのに……。
気配遮断の魔法は、私だったら、使えても一分くらいが限度。
だって、息を止めるような感覚に近いのだもの。苦しいのを我慢すれば、もう少し長く気配を消せるかもしれないけれど……。
「気配を消してもすぐに気がついてくれるのは、団長とルーシア嬢くらいです」
そう言って笑ったレイモンド様の笑顔は、今度こそ本物。
だからこそ、今の言葉が妙に胸の奥に引っかかって、抜けない小骨みたい。
でも、多分さっきの様子からいっても、安易にこれ以上踏み込んではいけないことに違いないわ。
私は、喉の辺りまで出かかった言葉を無理に飲み込む。
「…………」
「そんな顔するなんて。本当に、変なところで聡いのだから、困りますね。とにかく、この部屋で少し休んでいてください。今日は、仕事はありませんから」
その言葉に、私は勢いよくレイモンド様の顔を見つめる。
「えぇっ?! そんな!」
今日からさっそく、騎士服とかシーツを思いっきり洗濯できると思ったのに。
床を思いっきり拭き掃除したいと思っていたのに。
えっ、窓掃除くらいは……。ダメですか?
本気で落胆した私のことを、レイモンド様はダメな妹を見るような目で、なぜか見つめていた。
レイモンド様の秘密は、また後日。
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