呪いのモフモフと下働き令嬢 2
「失礼いたします」
ドアを開けて、すぐに飛び込んできたのは、まばゆいばかりの白いモフモフだった。
わぁ……。なんだか、呪いというにはずいぶん可愛らしい? 二足歩行の狼?
思わず真剣な目で見てしまった直後、あまりに失礼な自分の行動を恥じる。
「……まもなく神殿長が参ります。それまで、よろしければこちらをどうぞ」
白いモフモフ様が、目を見開く。
あっ、本当にキレイ。
その瞳は、樹氷みたいなアイスブルーをしていた。
「……お構いなく」
思いの外、その声は沈んでいる。
当たり前よね……。今、王都は騎士団の凱旋に沸いていると聞いているもの。
本当だったら、騎士様も王都に帰還して、祝福を受けているはずなのに。
「あの……。差し出がましいかもしれませんが、月光花のお茶です。少しでも、お身体のためになればと」
「月光花? ……そんなに高価なもの」
騎士様は、月光花の価値を知っているみたい。
おそらく、普通に飲んだら渋くて飲めないほどのお茶。市場にはあまり出回っていない。
もしかしたら、呪いを解くために色々試した中で、月光花のお茶も飲んだのかもしれない。
「せっかくご用意いたしましたので、ぜひ」
「……失礼する」
騎士様は、大きな口を開けると、口の中に注ぐように、お茶を一気に飲み干した。
熱くないのかと心配になってしまう。
狼の口では、飲みにくそう……。せめて、氷で冷やしておくべきだったのかもしれない。
「……ずいぶん飲みやすいな」
大きなモフモフの手のせいで、妙に小さく見えるカップを見つめて、騎士様がつぶやいた。
「えっと、秘伝のレシピなのです」
「……そうか。ありがとう」
騎士様は、笑ったように見えた。
ごめんなさい。笑った顔の狼、本当にかわいいです。
「っ……。は、はい!」
私は、淑女の礼を返す。
すると、騎士様は少し驚いたように目を見張った。
なにか、おかしなことをしてしまったかしら?
「ご令嬢、俺のことは、アースと呼んでくれ。しばらくここで世話になる予定だ。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
お辞儀をして部屋から出ようとした私の手を、アース様がつかんだ。
「え……?」
「えっ?」
驚いて思わず出た声に、なぜかアース様まで驚いたように声を上げて手を引っ込めた。
どうしよう。予想以上にモフフワで、思わず口元が弛んでしまいそう。
「あの……?」
「失礼した。あ〜。もしよかったら、名前を教えてくれないか?」
「こちらで下働きをしております、ルーシアです」
「下働き?」
そう。下働きのルーシア。
それが今の私の立ち位置。
「……失礼します」
「ああ……」
ほんの少し納得がいかないという空気を感じた私は、そそくさと部屋を去る。
そのあと、なぜかアース様は、ほんのひとときだけ人間の姿に戻ったらしい。
もしかしたら、月光花のお茶も少しは役に立ったのかな? だとしたら、お役に立ててうれしいな。
翌日そのことを知って、私は呑気にそんなことを考えた。
まさか、二度目の人生の大激動期を迎えるなんて知りもせずに。
モフモフ騎士様(*'▽'*)
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