下働き令嬢の帰還と騎士団第一部隊 2
馬車に揺られること2時間。
私たちは、王都の正門を堂々とくぐり抜けた。
すでに、騎士団の使用人が着用する黒い裾の広がったワンピースにブリム、白いフリフリのエプロンをつけていた私は、第一部隊隊長であるレイモンド様と一緒だったこともあり、取り調べられることもなかった。
良かった……。目立つことなく王都に入ることができたわ。
とりあえず、偽聖女であることを騒ぎ立てられることもなく、王都に入ることができて胸を撫で下ろす。
煉瓦で敷き詰められて馬車の揺れが激しい王都のメインストリート。中央神殿の前を通り抜けるときには、さすがに肩を縮こまらせてしまった。
そんな私の様子に気がついたのか、レイモンド様は何も言わずに車窓のカーテンを閉めてくれる。
……素晴らしい気遣い。
でも、気配がなさすぎて、一緒に乗っていたことを忘れていたから、カーテンを閉める音に驚いてしまったのは秘密です。
「もう、着きますよ」
騎士団の本拠地は、重厚なグレーの建物。まるで城壁のような高い塀で囲まれ、厳重に警護されている。
「すごい……」
「いざという時には、ここが王都防衛の要になりますから。要塞のようなものです」
「え? 要って……。王城ではなく?」
「あの場所は、煌びやかですが、防衛には向きません。この場所は、建国時の王城だった場所です。質実剛健で、美しさはないですが……」
私は、正門を通り抜ける手続の間、高い塀を見上げた。たしかに、煌びやかな中央神殿や王城と比べて、派手さはないけれど、無駄のないデザインが美しい。
「ここが、私が働く場所ですね!」
「そうです。囲われているようで、嫌になりませんか?」
……レイモンド様の、その言葉には、少しの引っ掛かりを感じた。
もちろん、レイモンド様はずっとアース様と一緒にいたのだから、私が偽聖女で、しかも王太子殿下の形だけとはいっても元婚約者だったこと、知っているんですよね?
「本音を言えば、楽しみです。きっと、アース様やレイモンド様のお力になるために働けて、楽しいと思います!」
「はあ……。ルーシア嬢は、どこまでも前向きですね」
「それくらいしか、取り柄がないので」
門をくぐり抜けると、それまでの物々しさが嘘みたいに、広い芝生の空間が広がる。
その先にあるのは、やっぱり壁と同じでグレーの飾り気のない四角い建物。
あまり、見たことがない様式。
けれど、高価なガラスが惜しみなく使われている。窓枠全てに、格子がはめられているせいで、圧迫感はあるけれど、内部には日差しが差し込んで明るいに違いない。
レイモンド様に手を引かれて、馬車から降りる。
そういえば、道もしっかり舗装されて、王都のメインストリートみたいに揺れることもなかった。
レイモンド様が、かすかに舌打ちをする。
その視線の先には、熊みたいに大きな体をした、焦茶色の髪の毛の騎士様がいた。
騎士様は、大きな声でレイモンド様の名前を呼ぶと、手を振りながら凄い勢いでこちらへと走り寄って来たのだった。
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