表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/56

下働き令嬢の帰還と騎士団第一部隊 1



 そっと、温かい手が離れようとしたから、離れたくなくてもみもみとその手を掴む。

 ピクリとした振動が伝わってきて、ギュウッと握られた私の手。


 幸せ過ぎて、口の端がにやけてしまう。温かくて、なんて幸せな夢だろう。


「――――行ってくる。ルーシアは、ここからは別行動だ。馬車で王都に向かい、そのまま騎士団へ行くように」


 低くて甘い声で目が覚めて、寝起きに聞きたかった声が聞こえてきたことに、驚きのあまりガバリと体を起こす。

 もちろん、離れがたい手は、握ったままだ。

 私を見下ろして、まるで笑ったように見えた狼の顔、その手がそっと離されたとたん、目の前の騎士様が、困ったように笑っていたことに気がつく。


「あの……。申し訳ありませんでした」


「いや? かわいい寝顔が見れて得したな?」


「――――っ?!」


 そういうところだと思います。

 きっと、王都では浮名を流していたんでしょうね?

 まあ、幼い頃から神殿の中で祈りばかり捧げていた私には、あまり関係のない世界だったけれど……。


「ルーシア」


 なぜなのだろうか、アース様がほほ笑んだ表情を厳しいものへと改めた瞬間、王都への凱旋すら、アース様にとっては戦場なのではないかという気がする。


「アース様? お気をつけて」


「王都に帰って来ただけだ。ルーシアが心配するようなことは、何もない」


 なぜなのかしら? 嘘を言っている、アース様。

 特に、確証があるわけではないけれど、王都に近づくほどに、聖女と呼ばれていた頃みたいに、勘が鋭くなってきている気がする。


 偽物聖女なのだから、気のせいに違いないのに……。

 背を向けたアース様の姿を、窓から見送る。

 すでに、たくさんの騎士達に取り囲まれ、出迎えられたアース様は、いつもの柔らかい表情が嘘みたいに冷たい瞳をしていた。


「…………いるんですよね。レイモンド様」


 それにしても、気配が感じられない。壁しか見えない。

 けれど、よくよく感覚を研ぎ澄ませれば、魔力の流れでそこにいることが分かる。


「さすがですね……」


 現れたレイモンド様は、先ほどまで窓枠の横の壁しかなかったはずの場所から現れた。

 認識阻害の魔法を使っているのだろうけれど、ここまで壁と一体化できるものなのかしら?


「どうして、ここにいると分かったのですか?」


「偽物とは言っても、長年魔力操作の訓練をしていましたから」


「そうですか。……辺境の神殿では使っていませんでしたよね?」


「……神殿長ベレーザ様に、生活魔法以外は使わないように言われていたので……。といっても、私の魔力はとても弱いので、たとえその制約がなくても大したことは出来ませんが」


 だから、私は意識して生活魔法以外は使わないようにしていた。

 ……アース様が、元の姿に戻るのは、魔法の力が関係しているのは間違いないけれど、どうしてそんなことが起こるのかは、私にはわからないのだ。


「そうですか」


 まあ、魔法と言っても、私が使えるのは、植物を元気にしたり、ちょっとだけ人の心の動きが感じられるくらいのもの。本物の聖女には、遠く及ばないに違いない。


 ……けれど、お別れの時、神殿長様は「もう、力を押さえる必要はない。むしろ王都に入る日からは、全力で使うように」と私の背中を押してくれた。

 そんな言葉を免罪符にして、私はアース様のお力になれるように、魔法を使うことに決めたのだ。


 とりあえず、薬草を元気に育てるとか?

 けがをした騎士様の応急手当とか?


 うぅ……。そこまで役には立てそうもないわ。

 やっぱり、全力で下働きを頑張るほうが、よっぽど役に立てそう。


 私は、騎士団でのお仕事をしっかりと頑張るのだと、心に誓ったのだった。



最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわいいものが、書きたくなって、新作投稿しました。鬼騎士団長と乙女系カフェのちょっと訳あり平凡店員のファンタジーラブコメです。
☆新作☆ 鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ