聞いていただけませんか? 3
沈黙のせいで、耳が痛いくらいに思えるけれど、このまま黙っていたら、どんどん話しづらくなりそう。
「アース様、お話を聞いてくださいますか?」
「ああ、もちろんだ」
何から話せばいいのだろう。
でも、やっぱりまず話すべきなのは、私が偽物だということよね?
「私、実は中央神殿で聖女をしていたのです」
「そっちか……」
「え?」
「いや、なんでもない。続けてくれるか」
聖女は、中央神殿の神殿長による神託により選ばれる。
私が3歳のときに、私の実家であるマルベルク伯爵家に生まれた娘が聖女だと神託が降りた。
当時、マルベルク伯爵家には、娘は私一人だったから、もちろん私が聖女だと認定された。
「その時の神殿長こそが、最近までお世話になっていた辺境の神殿長ベレーザ様だったのです……。けれど、ベレーザ様が引退した十年前、時を同じくして私の母が亡くなり、それと同時に義母と義妹が家に来たのです」
「そんな。……あまりに不義理ではないか」
「そうですね。……でも、貴族社会では、よくあることです」
私の母と、父は政略結婚だったから、愛しい人とその娘を大切にするのは、仕方がなかったのかもしれないわ。
そのあと、私はドレスも、母の形見の宝石も全て義妹に取られてしまった。
それでも、神殿で祈りを捧げる毎日は静寂で、幸せだった。
けれど、三年前のあの日。
中央神殿の新しい神殿長は、私が選ばれた時の神託の解釈が間違っていたと発表した。
「つまり、義妹のローゼリアが、本当の聖女で私は、偽物だったのです!」
言ってしまった……。
偽物聖女だなんて、アース様にどう思われるだろう。そんなこと、今まで思ったことはなかったのに、私はどうしてしまったのだろう。
その日から、私の生活は百八十度変わった。
辺境で神殿長をしていたベレーザ様が、呼び寄せてくれなければ、どうなっていたかわからない。
「その日から私は……」
「ルーシア嬢……」
「とても、とっても、幸せで!」
「ん?」
そう、その日から、みんなに親切にしていただいて、大好きなお洗濯も思う存分できて、本当に幸せで。
「幸せを噛み締めて今日まで生きてきたのです!」
「そ、そうか」
「…………ごめんなさい、アース様。こんな大事なことを隠していて」
アース様は、お優しい。
そして、私のことを必要として下さっている。
そのことに甘えていた自分に、腹が立つ。
「いや…………。すまない、知っていたんだ」
「えっ! いつからですか?!」
「……神殿を去るときに、ベレーザ殿に教えてもらったから」
そうだったのね。……アース様は、知っていらした。
私は、思わず脱力した。
アース様の、物言いたげな視線に気付きもしないで。
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