表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/56

聞いていただけませんか? 2



 アース様は、行く先々でその土地の有力貴族と話をしている。

 随分と顔が広いのね……。

 そんなのんきな感想しか持ってない私は、アース様がどんなお方かだなんて考えてもいなかった。


「……それにしても、遅くないかしら?」


 外はすでに、日が暮れかかって、小さな出窓から柔らかいけれど、どこか不安をかき立てる光が、白で統一された部屋をオレンジ色に染めている。

 私とアース様が、馬車の中で一緒にいたのは、6時間と少し。


 あと一時間くらいで、時間になってしまうのでは……。


 もふもふとした姿が、素晴らしく可愛らしいにしても、万人に受け入れられるとも思えないわ?


 もし、公衆の面前で、お姿が変わってしまったら、アース様は……。


「れ、レイモンド様!」


「……は」


「ぴっ?!」


 振り返り、護衛として残ってくれているはずのその名を呼べば、なぜか背後にレイモンド様が佇んでいた。えっ、いつのまに、部屋の中に入ってきていたのかしら?


「あ、あの。いつのまに?」


「昼食が終わってから、ずっとおそばに控えてました。一緒に部屋の中に入ってきたのですが。声もおかけしましたよね?」


「そ、そういえば、二人で部屋に入った記憶はあるわ。……ごめんなさい、そんなにも考え事に集中してしまっていたかしら? お茶も出さずに申し訳ありません」


 慌てて、おもてなしのためにお茶を入れようと立ち上がると、レイモンド様が軽く笑って制止した。


「俺にそのようなお気遣いは無用です。どうか、居ないものとして扱ってください」


「…………そ、それはできません!」


「え?」


「今すぐ、お茶を淹れますから、そのソファーに座ってください!」


 レイモンド様は、不思議そうに青い瞳を瞬いた。

 同じお部屋にいて、まさかお茶のひとつも出さなかったなんて、下働きとしてなんたる失態なの!


 ……それに、居ないものとして扱えだなんて、そんなの何だか悲しい。


「…………はぁ。本当に、普段の行動が崩されるな」


 室内に用意されていたティーセット。

 魔法を使って、慌ててお湯を沸かし、お茶を淹れる。


 カチャカチャ、コポコポと静かな音だけが、室内に響き渡る。


 私の魔法の力は、属性こそほとんど全て使えるけれど、とても弱い。実家のマルベルク伯爵家では、なんの役にも立たないと事あるごとに馬鹿にされていた。


 でも、下働きのお仕事をしてみれば、お湯を沸かしたり、洗濯したりと役に立つ素敵な魔法なのだ。


 ほどなく入ったお茶を、レイモンド様にお出しする。


「ごめんなさい。差し出がましいですよね。気がつかなかったくせに、今さら」


「いいえ。それに、気配を消していたのは故意にですから。……いただきます」


 優雅にお茶を飲むレイモンド様。

 その所作は、洗練されているから、レイモンド様もやはり貴族なのだろう。


 ……騎士団のレイモンド様? どこかで聞いたような。そういえば、第一部隊って、ものすごいエリート集団ではなかったかしら。


「あの……」


 レイモンド様に、質問しようかと思い口を開きかけたところ、扉が開かれた。すでに、もふもふな姿に戻ってしまっているアース様が、室内に入ってくる。


 なぜか少し不機嫌なような……。


 すっと、音も立てずにカップをソーサーに戻したレイモンド様。


「ごちそうさまでした。こんなに美味いお茶を飲んだのは、久方ぶりです。片付けておきますので、お二人で話し合ってください」


 立ち上がったレイモンド様の表情は、先ほどまでの笑顔と違ってどこか冷たい。


 いつも見ている顔だわ。これは、お仕事モードなのかしら?


 レイモンド様は、やっぱり音を立てずに部屋から出ていく。残されたアース様と私は、気まずい沈黙のまま見つめ合った。



最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです(*'▽'*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわいいものが、書きたくなって、新作投稿しました。鬼騎士団長と乙女系カフェのちょっと訳あり平凡店員のファンタジーラブコメです。
☆新作☆ 鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ