聞いていただけませんか? 1
それから、数日間、馬車の旅が続き、王都に向かう最後の街にたどり着いた。その間、私たちの馬車が、魔獣と出会うことは一度もなかった。
「次の街で泊まる。明日は、王都に着くな」
「そうですね」
辺境から王都までの道のりは、命懸けの連戦だと顔馴染みの行商人から聞いていたのに、意外にもすんなり着いたわ?
不思議に思いながらも、安全な旅路に感謝して、聖獣様に祈りを捧げる。
王国全域に建てられた神殿に祀られているのは、初代国王を導いたという白銀の聖獣様だ。
そういえば、呪われたといいながらも、アース様のお姿は、聖獣様を思い起こさせるわね。
……どうしてなのかしら。私にはなぜか、アース様の白銀の狼姿が、呪いだなんて思えない。
小さい頃から、祈りを捧げてきた聖獣様にどこか似ているからかしら?
眠い目をこすりながら、なんとか今日は、目的地まで眠らずにたどり着いた。
アース様と握っていた手を離す。
さあ、ここまできて、後戻りもできなくなってから伝えるのはずるいけれど、やっぱり王都に着く前にはお伝えしなくてはね?
白銀の狼が混ざったような姿から、アース様の姿が、白銀の髪色とアイスブルーの瞳はそのままに私を見つめる騎士様へと変わる。
それを合図に、私は重い口を開いた。
「……アース様。お伝えしたいことがあります」
「そうか。わかった、この後少しこの地を治める貴族との話し合いがある。夜でも構わないか?」
「お時間をいただき、感謝いたします」
それだけ伝えると、ふんわりとお辞儀をする。
顔を上げると、なぜか目を細めたアース様が見つめていた。
……なにか、おかしかったかしら?
「…………ルーシア嬢」
「はい」
「ルーシア嬢が、何を話しても、すべて信じて受け入れると誓おう」
「えっ?」
これから私が話そうとしているのは、ものすごく重くて聞いたら巻き込まれてしまうかもしれない話なのですけれど?
さすがのアース様でも、辺境に帰れ、とおっしゃるのではないかと思っているのですが……?
「……信じられないか?」
「えっと、あの……」
信じられないはずがない。
ほんの数日間だけれど、アース様は、いつも厳しい表情をしているのとは対極的に本当にやさしくて信頼できると知ってしまった。
……なんて答えたらいいのかな。
モジモジと動かしていた指先をギュッと握り込む。でも、いくら考えたところで、答えは一つしかない。
「……私も、アース様のことを信じています」
その言葉を正直に告げた瞬間、なぜか少しだけ誇らしくて、思わず微笑んでしまった。
そんな私の顔をまっすぐ見つめたまま、アース様は、なぜか軽く目を見開いた。
「…………そうか」
たったそれだけ言い残すと、アース様は私に背中を向けて、足速に歩み去った。
最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです(*'▽'*)