呪いのモフモフと下働き令嬢 1
私は、れっきとした伯爵令嬢だ。
けれど、訳あって神殿で下働きをしている。
今日も、洗濯桶に山と積まれた洗濯物を洗い、絞り、そして干す。
「れっきとした伯爵令嬢……と、言えるのかしら」
思いっきり広げたシーツが、パシンッといういい音を立てる。青い空の下、爽やかな風。
淡い金色の髪を束ねたポニーテールが、風に揺れる。そよぐ風の気持ちよさに、私は空色の瞳を細めた。
私は、ここでの生活が気に入っている。
誰が見ても、洗濯ばかりしている私が、貴族の令嬢だと思う人なんていないだろう。
それでいいの。それがいい。
「ルーシア! 貴族のお客さまがいらしたの。おもてなししてくれる?」
神殿長からの依頼。貴族令嬢として、一通りの所作を身につけた私は、神殿に来た貴族のお客さまのおもてなしを担当している。
「はーい!」
私は振り返り、残りの洗濯物はあとで干そうと決めて、カゴを置いて神殿の中に入る。
今日は天気がいいから、あと2時間程度であれば、干すのが遅れても洗濯物は乾くよね?
「ところで、本日のお客さまの御用向きは?」
「…………先日の魔獣の大発生で、強力な呪いをかけられてしまったらしいの」
「まあ……。それはお気の毒に」
神殿長からの言葉を伝えに来た、年若い神官メアリーの言葉に、私は思わず眉をひそめた。
どんな呪いなのだろうか。
王国の平和のために働いてくれた騎士様の呪い、無事解けるといいな。
早速、エプロンを外して、シンプルなワンピース姿になる。
化粧もせず、髪の毛も一つに結んだだけの姿。
けれど、ここは清貧を美徳とする神殿だから、誰にも笑われたりしない。
「呪われたのなら、月光花のお茶がいいよね」
高い戸棚の上は、背を伸ばせば辛うじて届く。
月光花は、高価。けれど、その分、呪いなどに対しての清浄効果が高い。
家から持ち出せた、数少ない品物の一つだ。
少しばかり渋みが強いから、低温でじっくりと淹れることと、蜂蜜をひとさじ入れるのが私のレシピ。
「呪いが和らぎますように」
おまじないも忘れず、完成したお茶をトレーに乗せて、私は応接室の扉を叩いた。
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