君の残したオーパーツ
「オーパーツって、タイムトラベラーの落とし物だったんだよ」
映画帰りのカフェ。
甘いコーヒーの香りと有線の歌声の中で、ぽつりと出た君のひと言に僕は笑った。
さっきまで一緒に見ていた映画の影響をすぐ受ける君が、可愛くて。
―― 周りに流されやすい子。
最初から君の印象はそれで、いつもみんなの隅っこでニコニコしてうなずいていた。
他人との距離感が全く掴めなくて、かといって自分を抑えて周囲と合わせることにも意味を見出だせずに、ぼっちを決め込んでいる僕にとって、君はいつも驚きだった。
―― 隠されてる本当の君を探り当てようと、付き合い始めた頃には意地のように君に聞きまくったっけ。
行きたいところは?
見たいものは?
何が食べたい?
けれど君は、びっくりするほど何も知らなくて、デートコースは結局、僕がほとんど決めてしまっていた。
それでいいのか不安だったけれど、君は。
どこに行って何を見ても何を食べても、楽しんでくれる。すぐに影響を受けて、面白いことを言ってくれたりする。
それは、とても貴重なことだと思うんだ。
―― 『自分がない』 って気にしていた君だけど、君みたいな人のおかげで、それぞれバラバラな人たちが一緒にいても、みんな楽しい気持ちになれるんじゃないかな。
そんな君が、付き合って1年の記念日に珍しく行きたがったのは、意外なことにSF映画だった。
「ねえ、映画のシーンが背景のプリクラ! 一緒に撮ろうよ」
「いいけど、僕は要らないよ」
写真は気恥ずかしくて受け取れなかったけど、君が好きなものをまた知ったのは嬉しい。
目を輝かせる君は、とても可愛い。
僕たちの恋はゆっくりで、まだ手を繋いで歩くだけ。
でも、こうして小さな発見を1つずつ重ねて、お互いに掛け替えのない存在になっていくんだろう ――
翌日、君は姿を消した。
どこを探してもいない。
そして誰も、君のことを覚えていなかった。
夢だったはずない。
1年も付き合ったんだ。
けれどよく考えたら、君は僕に何ひとつ残していかなかった。
せめて、あのときプリクラを貰っておけば ――
『千年前の遺跡から、シール付きの写真のようなものが発見されました。分析の結果、紛れもなく当時のものと判明したため、新たなオーパーツと騒がれています』
ある日のニュース画面に、僕は目を丸くした ―― あの、プリクラだ。
『なお、未知のインクも検出されており―― 』
拡大された画像には、見覚えのある君の文字。
" love, forever. "