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第32話 生誕祭の終わり

いつもありがとうございます。少しでも楽しんで読んでいただけたら幸いです。

私を助けてくれた王宮直属の執事だという彼は、名前をゼーファといった。

薄い青のサラサラした髪が印象的で身長はラルと同じか少し高いくらいだ。


「ゼーファも孤児院育ちなの!?」

「うん。僕は孤児院を出てすぐに王宮の執事試験に合格したんだ」

「それって、かなり優秀じゃない?」

王宮の執事といったら選りすぐりの秀才が集うイメージがある。時世に疎いラルでも知っていることだ。

「あはは、よく言われるけどね。僕が受かったのはたまたまだよ」

その上、謙遜する心の余裕も持ち合わせている。ラルはただただ目の前の人物を尊敬する。

「ラルは孤児院を出て何をしているの?」

「私はギルマ学園ってところに通ってるかな」

「えぇ!?それこそ優秀じゃないか・・・でも、孤児院を出たっていうことはラルって[使徒]の人?」

「まぁ・・・」

大抵の貴族はどの課にも入れるが、孤児院を出た人間は王国との繋がりが薄いからほとんどが書類審査で落とされてしまう。孤児院=[使徒]っていう世間の風潮はあながち間違っていない。

ラルの反応を見て、優秀なゼーファは自分の返しが彼女にとって芳しくなかったことを悟る。

「あ、悪気はないんだ。ただラルは凄いってことを言いたくて。・・・君は契約者とかいるの?」

「いや、今はいないかな。訳あって解除しちゃった」

「へぇ・・・」

ゼーファは自分から聞いたくせにあまり興味がなさそうに相槌を打つ。その視線は、ラルの後方に注がれていた。

「・・・やば」

「どうしたの?」

焦り始めたゼーファを不思議に思っていると、やや不満を滲ませた女性の声が聞こえた。

「ちょっとゼーファ!お客様のおもてなしもいいけれど、まさかサポってたりしないでしょうね?」

赤い髪をなびかせた吊り目の少女がつかつかと歩み寄る。

「ち、違うよ。僕は彼女を助けたんだよ」

ね?と縋るようにゼーファはラルを見る。それは事実だ。ラルの頷きを見ると、少女は納得したように立ち止まる。

「こんばんは。いきなりのご無礼をお許しください。私はマリア。そこにいるゼーファと同じ王宮の執事です」

姿勢を正して上品に体を曲げる。重力に従って垂れる朱の髪さえも気品を携えている。その所作は見とれるほどに美しかった。


「ラルです。すみません、私がゼーファを引き留めちゃって」

勤務中の彼のことを考えていなかった私が悪い。すぐに彼を解放してあげた。マリアに引きずられるようにホールに連れていかれる彼に思わず吹き出す。


「・・・ゼーファにマリア」

ゼーファとは気の合う友人になれそうだ。マリアも正義感の強い人だ。また会えるといいな、と思いながらラルは人がひしめき合う空間へと戻った。


***



「おめでとうございます」

サイファー王子への謝辞を述べる列に並んで早15分。やっと順番がきた。

「やぁ、ラル。今日は来てくれてありがとう。窮屈してない?」

「おかげで美味しいご飯を堪能できてます!」

「なら良かった」

目の前で目元を綻ばせる彼をじっと見つめる。


(そういえば、この人もかなり美形よね・・・。高貴な人って顔が綺麗な人しかいないの?)


じっと見つめて世の中の不公平を呪っていると、サイファー王子が顔を赤らめ始めた。

「ちょっと、僕の事見過ぎじゃない・・・?」

最近敬語をやめつつある王子が、片手で顔の下半分を隠してしまう。

「あ、ごめんなさい。綺麗な顔してるなぁって」

「は!?・・・そう、僕の顔好き?」

「えぇ、まぁ。カッコいいですよね」

とラルが言うとサイファー王子は、ばっと不自然に横を向く。

「ど、どうしました?」

生誕祭では途轍もない数の人がサイファー王子との会話を求める。もしかしたら、疲れているのかもしれない。ラルの後ろにも行列が控えている。ならば、早々に切り上げなければ。

「じゃあ、私はこのくらいで。また会いましょう」

「あ、はい。そうですね。でも、その前に最後に僕からもお礼を言わせてください」

立ち去るラルを引き留め、王子は綺麗なブルーの瞳をラルと合わせる。

初めて会った時にも感じたが、王子の目は吸い込まれそうな蒼だ。初めは瞳の奥に何かを秘めていたようだったが、今は透き通るような純真さを瞳から感じることができた。

「今日はありがとうございます。この催しが終了したら、すぐに呼ぶので応接室で皆と待っていてください」

「はい。楽しみにしています!」

今日は、クレア、カメリア、グレン、リージェン、ギン、それにサイファー王子と私の7人で彼の誕生日をラル流で祝うのだ。少人数で開かれるパーティーにみんな驚くかもしれない。ワクワクしながらラルは王子の前から去っていく。


「・・・効果無し、ね」

人を魅了する眼の力を持つ王子のがっかりした声は聞こえていなかった。


***


生誕祭も終わりを迎え、最後は王子の一言で幕を下ろすようだった。

広間より高い位置に立ち、人々の注目を一番に浴びる王子は緊張する様子もない。


「今日はお集まりいただきありがとうございました。私のために多くの方が集まってくださって恐縮です。・・・それと、本日何度もご質問いただいた婚約者の件ですが・・・」


会場がざわつく。


「私は心に決めた人がいるので、その方への微かな希望がある限り、婚約者は受け付けません。勝手な選択をどうか許してください」


ざわめきは最高潮を迎える。当然、ラルも焦った。


(そういえば、王子に協力するって言っちゃった!このまま王子とその人の進展がなかったら、王国にとって一大事じゃない!?どうしよう、早く手を打たないと。気になっている人って、クレア?カメリア?どっち?それとも私の知らない人?)



頭を抱えるラルから遠く離れた所で、五人がひそひそと話していた。


「ちっ。あいつ言いやがったな」

「王子に希望を抱かせる訳にはいかないなぁ」

グレンとリージェンがぼそっと忌々しげに呟く。

「あら、わたしもラルと一緒にいたいのに。卒業後も」

「まぁ自由奔放な彼女を婚約で縛るにはまだ早いかしらね」

クレアとカメリアが裏のある笑みを浮かべている。

「お前ら・・・くれぐれもラルの意思を一番に考えろよ」

ギンはため息をついて額に手を当てる。


そんな彼らの思惑はつゆ知らず、ラルは自分の責任の重さに押しつぶれそうになっていた。


ここまで閲覧していただき、ありがとうございます!

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