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第31話 生誕祭

綺麗な衣装に身を包んだラル達を想像するのが楽しかったです!

少しでも楽しんで読んでいただけたら幸いです。



今日は待ちに待ったサイファー王子の生誕祭。各国から王子を祝うために要人が集う。


夜空の下、初めて訪れる王宮の門前。

ラル達は正装に身を包んで馬車を降りた。


「うっわぁ」

目の前の豪華な建造物を見上げながら思わず感嘆の声を漏らす。

「ちょっとやめなさいよ。みっともない。もっと堂々としなさい」

子供のように目を輝かせるラルにカメリアがため息をついた。

「ごめん。つい」

と、ラルはカメリアを見る。深紅のドレスを身にまとった彼女は、バラのような可憐さを兼ね備えていた。バラのように美しく、そして少し棘のある性格の彼女にぴったりだ。


「私たちの本題は生誕祭の後なんだからまだ驚くのは早いんじゃない?」

横からクレアがラルを覗き見る。クレアは例えるなら柔らかな雰囲気を纏う百合だ。カメリアと違って、優しさですべてを包み込む。学校主催のパーティーの時とは違って、今日は淡い黄色のドレスを着ている。

生誕祭後は、サイファー王子のご厚意で一泊させてもらうことになった。友人のみで王子を祝う予定になっている。一生で最後かもしれない体験だ。


「それにしても二人共綺麗だねぇ」

つい、声が漏れた。流石にご令嬢。場慣れしてるし、豪華絢爛な場にも相応しい容姿。

自信のないラルを気に掛けたのか二人がフォローを入れてくれた。

「そんなことないわ。ラルの方が綺麗よ。綺麗っていうより、麗しい・・・?」

「あら、貴方もわたくしに劣らないくらいの見目だと思うけど」

「うぅ・・・ありがとう」

二人の優しさが逆に辛い。でも、確かにドレスは麗しい。あの時と同じ紺色のドレスだがかなり気に入っている。

(ドレスに負けないように頑張ろう)

気合を入れたラルは、勇ましく輝く会場へと足を踏み入れた。



***


「ラル!」

遠くから手を挙げて私を呼んだのはグレンだ。彼の周りには既に令嬢が群がっていて、正直こちらには気付いて欲しくなかったが。

「や、やっほー。今取り込み中っぽいからまた来るねー」

そそくさと退散する。何か言いたげな彼を置いて、会場を見渡す。グレンから少し離れた所にはリージェン。サイファー王子は主役だから近づけないし、クレアとカメリアはかつての友人との会話に花を咲かせている。


(・・・あれは!)


壁の隅の方に、人目を避けるようにして私が唯一話しかけられる一人の男性がいた。この人の正装は初めて見る。遠くで見るギンは、何故かいつものような親近感を覚えることが出来ない。ご令嬢が遠巻きに彼を見つめているせいかも。

「なんか、貴族みたいに見える・・・」

どうして私の周りは上品な人しかいないのか。ギンも同じ孤児院育ちのはずなのに何が違うのだろう。遺伝子レベルの話ならお手上げだ。

やはり恐れていた疎外感を徐々に感じつつ、目を閉じて荘厳な音楽に集中する。


「あの、少しお話よろしいですか?」

グラスを持った小ぎれいな男性がこちらを見ていた。

「あ、はい!大丈夫です」

「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」

彼はクスっと口元を隠して上品に笑う。

「貴方はどこのご令嬢ですか?先ほどからずっと気になっていて」

「えっと、私そんな大層な身分じゃないんです。サイファー王子の学友です・・・」

少しだけ感じた劣等感を脳内で振り払う。

「そうなんですか、全然そうは見えませんでした。不躾な質問を許してください」

「いえ・・・」

優しそうな人で良かった・・・と思ったのはほんの一瞬。


「じゃ、問題ないですね。抜け出しましょう」

そう言って優しかった男はラルの腕を掴み、強引に引っ張る。大声をあげてやろうかと思ったが、ここは友人である王子の生誕祭。白けることはしたくない。

「どうしてですか」


(少しでも時間を稼がないと)


「だって、君、ここにいるのはただ王子の生誕を祝うだけでしょう?なら、他の貴族と違ってコネを探してない。ちょっとくらい、いいでしょう?」

「良くないです。意味が分からない。どうして私なんですか」

焦って手汗が止まらない。とりあえず口を動かして抵抗する。

「君と親しくなりたいからだよ。知ってる?さっきから、つまらなさそうにしている君に話しかける機会を多くの人間が伺っていたんだけど。・・・その様子だと気づかなかったみたいだな」

「私と親しくしても貴方に益無いですよ」

あまり使いたくない断り文句だが、この際仕方ない。私と仲良くしてもコネなんかないし。

卑屈な考えに陥ったラルに思いもよらない言葉が落とされる。

「サイファー王子の学友ってことは、君はあの学校の生徒だ。それだけでまぁ及第点だけど・・・【神の左脚】って君だろ?」

ひゅっとのどが鳴る。身元がバレている。

最近何事もなかったからといって、気持ちが緩んでいたのを悔やむ。この場は私が最も警戒しなければいけなかった。どこかにいるかもしれない『過激派』を。

「・・・だったら?」

この男は警戒対象だ。大声を出すのも辞さない覚悟で問う。

「『だったら?』だって?君、[最高使徒]の価値を分かっていないようだな。君は卒業後、相当好待遇だよ。王宮にも仕えることができるし、大貴族の護衛幹部としていいポストにもつける。何ならその辺の弱小貴族より出世できるんだ。狙わない理由がない」

「結局そういう目的なのね」

男が『過激派』ではないのを悟り、安心する。

「一番惹かれたのは君の雰囲気だ。憂いを帯びた表情に、その心の内を表すような藍色のドレス。・・・一瞬で君に目を奪われた」

君に好意を抱いたから僕と仲よくしよう、と手を差し伸べてくる。

「お断りします」

素気無く手を払うと、男の気分を大いに害したようで目の前の男は激高する。

ラルの腕を強引に掴み、ズルズルと廊下の方へと引っ張ってきた。ラルの苛立ちは最高潮を迎え、もう彼に蹴りを入れてしまおうかと思っていた時、


「何をなさっているんですか?」


思考が極端になっていたラルを助けたのは、少し華奢で端正な顔をした青年だった。





ここまで閲覧していただきありがとうございます!


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