レジスタンス
今日の仕事を終え、柳に業務連絡を終えた俺は帰路についた。
夜だというのに、周囲は光と喧噪にまみれている。
死能により、技術は衰退したが、その代わりに、街はお伽噺が溢れ出したようだ。
五年前。
誰が予想できただろうか?
空を飛ぶ人間がいることを。
生身の肉体で浮游する者もいれば、龍の姿になったり、背中から翼を生やした変身能力者なんでのもいるくらいだ。
ちなみに、変身能力者は、人間の姿を逸脱すればする程、死能としての階級は高い。
中でも、龍のように想像上の生物は最上位である。
五年前はどうか知らないが、今では相当いい暮らしをしていることだろう。
そんな事を考えている間に、家の玄関がもう目の前にあった。
中世ヨーロッパの貴族の家をイメージして建てられた建築家のセンスが光る家だ。
首都大阪の上級区であるこの辺では比較的こぢんまりとした感じはするが、そこも含めて俺は気に入っている。
玄関のドアノブに手をかけ開く。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、マイマスター」
その瞬間、居心地のよい温かい雰囲気と共に、俺に仕えていてくれるメイドのセラスの柔らかい声が俺の耳朶を打つ。
帰ってきたという実感を抱きつつ、俺はセラスの微笑んだ。
「セラス、俺がいない間に変わったことはなかったか?」
「はい、マイマスター。特になにも。族が数名進入したくらいです」
「おいおい、それは十分変わったことだろ?……で、その族とやらは?」
「修弥様が始末しました」
「そうか」
修弥とは、隠れて俺の護衛をしている奈津の双子の兄である。
如月修弥と如月奈津。
修弥はこの家の警護。
奈津は俺の護衛。
双子だけあって、顔はそっくりで、修弥は少女と見まごう可憐な容姿をしている。
「それにしても族…か」
恨まれてるのは当然である。
昼はあんな仕事をしているから祝福を受けていない人間からは憎悪の対象だ。
それに、それだけでなく―
「我々はレジスタンスですから、死能使いにも相当恨まれています。今回も過去に我々に関係のあった人物による仕業によるものです」
セラスは淡々と感情の読めない声で続ける。
「まぁ、政府側に報告されなかったのは証拠がなかったからでしょう。その証拠を掴むためにこの家に侵入したとみた間違いありません」
「そうか…だがこれはミスだな。これからは生き残らせないように徹底していかないと…」
「はい、マイマスター」
そう。
俺達はレジスタンスである。
目的は死能使いが崇拝している不死鳥の神を殺すこと。
俺もセラスも修弥も奈津も、そしてこの家にいるレジスタンスメンバーは皆、死能使いでありながら、死能使いを憎悪している集団だ。
そのためには、これ以上のミスは許されない。
今は権力が必要だ。
少なくとも、特区に入れるようになるくらいは……。
死能使いはその能力による階級が分けられている。
そして階級によって、住む場所も変わる。
―祝福を受けていない人間は、東京―最下層下級区。
―死能は扱えても、力が小さく物理的な破壊力を持たない者は下級区。
―かろうじて物理的破壊力を持ち、軍の下っ端達は中級区。
―大きな破壊力を持ち、軍や警察の上層部に所属している者は上級区。
―軍や警察の幹部、政財界に所属している者は特区。
特に特区は特別で、特区の住民になれると、あらゆる特権が行使できるようになる。
たとえば、今日の柳のお遊びも、特区の住民だからこそできたことである。
そして、何より、特区の住民はその権利を貰う時に不死鳥の神に謁見することができる。
俺の狙いはそこにあった。
今の俺の階級は特区の柳の直属の部下ということで上級区。
俺は上にあがるには、まずは柳を始末する必要があった。
少なくとも、このままでは柳い飼い殺しにされることは明白である。
ならば―
「そろそろ…動くか」
さぁ、待っていろ不死鳥。
お前に目に物みせてやる。
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