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「おう、おまえら、また戦いに勝ったんだってな。どれだけ強いんだ。おまえたちの強さに見合った城に改築するのは、おれたちも大変だぜ。今度は、魔法の城改にしておいてやった。」
築城技師がいった。
王都が魔族の軍に攻め落とされたという報告が届いた。さすがに、この知らせには、全軍が騒然となった。
「人間側の首都が攻め落とされたのか。人間側の負けじゃないのか」
「いや、王都の陥落が負けを意味するわけではない」
「王さまはどうなったんだ」
「わからない」
「まだ戦いつづけるのか」
「おれは戦うけど、おまえさんはどうする?」
「どうするか、悩んじゃうなあ」
みんなが口々にうわさしている。
仲間たちの動揺が激しいと感じたクラップは、『約束の置時計』のことを少しづつみんなに教えることにした。ずいぶん、長いこと、引き伸ばしてしまった。
クラップは、まず、ジンジャン、ロス、シドニー、メイビーを呼んで、隠し部屋に行き、『約束の置時計』を見せた。
「これが、女神シアジアと人類の間で交わされた約束を保証する『約束の置時計』だ。これがあれば、女神たちは百年後に人類を救ってくれる。」
四人とも、圧倒されるように『約束の置時計』を見た。
「ジンジャンとメイビーは知っていたはずだ。ロスとシドニーは、初めて聞くのかな」
「ああ、こんなものがあるなんて、まったく知らなかったぞ」
ゾンビのロスが驚く。
「おれも見るのは初めてだ」
メイビーがいった。
なんだ、メイビーは見たことがなかったのか、とクラップは驚いた。
ジンジャンもシドニーも、固い決意を示す表情をしている。
「これが置いてある防衛拠点ボロックが人類の最終防衛拠点だ。そして、自慢になるが、その責任者がおれだということだ」
クラップがいった。
「王都が落ちても、ボロックを守るために戦いつづけなければならないというわけだね」
ロスがいう。
「戦いがいつまでつづくかわからない。だが、あきらめるわけにはいかない」
「ああ」
「質問はあるか」
クラップが聞くと、まずロスがいった。
「ボロックじゃ、領主クラップ弾劾裁判だとか、反乱のうわさとかが流れている。今まで持ちこたえたんだから、突然、問題になるってわけじゃないだろうけど、大丈夫か」
「反乱は、ある程度の頻度で必ず起こるものだと考えるようになった。自主的に考える集団では、そういうものかもしれない。見つけるたびに対処していく」
「協力するぜ」
ロスがいう。
「魔王はこの『約束の置時計』を知っているのか」
メイビーが聞いた。謎の協力者メイビーに知らないことがこんなにあるとは、意外だ。メイビーは神界から来たんだったよな。神界でも、それらはわからないことなのか。
「魔王が知っているかどうかはわからない。このまま、戦争が長引けば、魔王本陣と戦いになる可能性もある。そこまで考慮して、戦っていくしかない」
「唖然とするな。ボロックが魔王と戦うとはな。」
メイビーが笑った。
「おれは最初から、魔王とことを構えているのはわかっていたさ」
「いうねえ、クラップ」
と、ロスがいう。
「最初は、わたしたち五人で戦ったんだよねえ」
ジンジャンが思い出す。
「ああ、みんな、めちゃくちゃ強くて、びっくりしたよ」
「そうだったけえ」
ジンジャンが笑った。
「この『約束の置時計』を教えてよいものが誰か、難しい。女神が人類を救うのは百年後だ。百年間、守りきるには、今、戦争しているからといって、簡単に教え広めてはまずい」
「なるほど」
「誰に教えるかは、まだ決めてない。とりあえず、この五人で情報を共有しておきたかった。おれが死んだら、知っているものに次の司令官を任せるとは、『約束の置時計』を知っている者に次の司令官を任せるということだ。もし、おれが死んだら、そうしてくれ」
「わかった」
みんな、静かにうなずいた。
「がんばろう」
ジンジャンがいう。
「ああ」
クラップが答えた。