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澱(オリ)

「フィオー? おーい、どうかした?」


 ハッと我に返る。

 ニアとの出会いを思い出すのに忙しくて、ボーッとしてたみたいだ。


「フフ、何かいいことでも思い出してたの?」


「……や、別に」


 ニアに頭を抱かれて甘えてたこと、思い出してたんだよねー。なんて、さすがに言えない。

 ていうか顔が近い。なんか恥ずかしくなって、目を合わせてられない。



「ふぅん……。まっ、それよりも。腕はもう元通りだね。形だけだけれど」


 しばらく思い出に浸るのに忙しくて忘れかけていたけど、そういえば魔法で歪ませた腕を治しているところだった。


「うーん? あー。やっぱり、これ残っちゃうなぁ……」


 ニアの言う通り形は戻っていたけれど、肌の色が違う。元の、うっすら赤みがかる白い肌じゃなく、ほくろの黒と打撲の紫が混ざった、毒のような色がマダラ状に浮かび上がってしまっている。



 ヒズミの魔法を使った後はいつもこうなる。ニアが言うには、魔力が制御できてないせいとか、なんとか。


「これ、痛いんだよね……」

 えーっと、このマダラ。ニアはなんと呼んでいたっけ?


「やっぱりまだ、澱が出ちゃうんだねぇ」


「あーそう。"オリ"だ。呼び方いつも忘れるんだよね」

 

「フィオもけっこう練習してるんだけど、魔力をキレイに保つやり方って、頭で考えてできるものでもないから」


「はぁー……。むずかしそう……」


 このオリとやらが残って楽しいことは一つもない。

 マダラになった肌の辺りは鈍い痛みがあるし、力も入らなくなる。なにより見た目も気色悪いし、ほんと大嫌いだ。


「これって結局なんなの? オリとか前も言ってたけど、いまいちよくわかんないんだよねぇ」


「うーん、魔力の残りカスね、つまり。普通の魔法使いなら、自然と処理されていくのだけど、フィオの場合、魔法について全部忘れちゃってるから。魔力を消費した後に出る残りカスが、うまく流れ出ていないみたいなのよね」


「うまく流れ出ていない、って言われてもさぁ。これって意識してどうにかできないの?」


「それが難しいのよねぇ。フィオって、自分で考えて尿が作れるわけじゃないでしょ? 澱も同じように、身体から自然に流れて消えてしまうものだけど、それが出来ないんだから問題ね」


「ふーん、ン?」


 ちょっとまて。今聞き捨てならないことをニアが言った。

 尿がどうとか聞こえたぞ。つまりなに。今わたしの身体にはオシッコみたいな汚いのが残っていて、それがマダラ状になって浮き上がっているという。そういうこと?


「えぇーーー!? これってじゃあメチャクチャ汚いんじゃないの!? ねぇやだー! ニアわたしこれイヤー!」


「例え話だから、実際フィオの身体に汚いのがあるわけじゃないのよ。あ、いやでも、澱も溜まれば身体に毒なわけだし、似てると言えば似てるのか……」


「ちょっと、なんにもフォローになってない! なんか気持ち悪くなってきた! 今すぐ消し方教えて! はやくー!」


「こうなるから、勝手に魔法を使ったり、花園から出ちゃダメだよって言ったのに。次からはちゃんと私に断ること。いーい?」


「分かったからぁー!」


 改めて、約束させられた。外出どころかもう二度と魔法も使わない。絶対。ニアの特訓でも使わないから。今日で魔法先生ニアからは卒業だ。


「魔法の特訓の方はちゃんとしてもらうけど。まぁ、だからお姉ちゃんがいつも治してあげてるでしょ? ほら、今日もやってあげるから」


 来た。わたしの一番キライな時間が。

 ここで暮らしはじめて三日だけど、アレだけは慣れない。


「…………アレかぁ。やっぱりアレやらないとだめ?」


「もちろん。今日は特に澱の量が多いから、ほっといたら身体にどんな悪いものが出るかわからないよ?」


 うわぁ。どっちもやだなー。なんとかアレを避けられないものか。


「あそだ。ねぇ。手でやるとかじゃダメなの?」


「手? うーん、できないかなぁ。どうして? 口でやるのに何か問題ある?」


「いや、別に、そんなこと無いんだけど……」


「私も、口で舐めて取り込む方法しか出来ないかな。皮膚が邪魔だもん。それに、澱でもなんでも、身体に取り込むって言ったら、口からやるのが一番イメージしやすくて」


 その方法でしか無理だと言われたら、反論できなくなるけど……。嫌なものは嫌だ。言い訳を出そうとしても、口先は尖ってモゴモゴ言うだけでまるで役に立たない。


「……フィオが嫌がるのも分かるけどね。身体から無理やり澱を吸い出してしまうんだから、どうしても痛い思いをさせちゃうし」


 それも、ある。本当に痛いのだ。アレは。

 うすく肌を切って、さらにそこから無理やり血を吸い出されたら、きっとああいう痛みになると思う。実際にされたことはないけど。


「でも、他にやり方が思い浮かばないんだもん。私が、フィオの澱を口で舐め取って飲み込んで、私の方の身体で自然に処理させる。これなら今すぐでも治せるから」


「んあぁぁんんん……。やーだー…………」



 何が嫌かって、ニアは単純に、アレが痛いから嫌がってると見てるようだけど、それだけじゃない。

 だって、身体をニアの舌に舐められるなんて。いくら女同士でも、そんなのは恥ずかしいに決まってる。これはわたしが意識しすぎてるだとか、そういう問題じゃないはずだ。


 ニアはそこんとこ大人で、治療かなにかだとして割り切ってるみたいだけど。

 その態度も含めて、わたしはこの、オリを舐め取る治療が嫌いなのだ。


「はいはい、もう駄々こねないで。お姉ちゃんだって楽しいわけじゃないんだから。今日はいっぱい澱が溜まって大変でしょ? 右腕とあと、身体のどこかにも出てるんでしょ? 隠しても分かるからね」


 うぅ、やっぱりか。やっぱり今日も、そうなるのか……。

 また、観念するしかないのか。すでに恥ずかしさで顔が熱くなってきてる。赤くなっているのはバレてないよね? あぁ、ツライ……。


「安心しなさいフィオ。お姉ちゃんなるべく痛くないように終わらせてあげるから。それじゃ、お洋服脱いで」


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