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帰り道

 


 まだ身体が鈍くてまともに動けなかったので、ニアに抱き上げてもらった。……お姫様抱っこのまま花園をゆく。花園の中にあるわたしたちの家までは、まだ距離があった。


「あのー……。重たくない? 無理してるなら少しくらい自分で歩くんだけど……」


「んー? 大丈夫よ。フィオ、細くて軽いから」


「……うむぅ」


 ニアの顔はにこやかだが、持ち運ばれるわたしの方はむしろ落ち着かない。緊張して身体にやたら力が入ってしまう。

 というより、恥ずかしいからホントは降ろしてもらいたくて言ってみたのだけど。そこには気付いてもらえなかったみたいだ。

 親切でしてもらっている分、無下にはできないし。


 あと、わたしが軽いかどうか以前に、変異した右腕はどうなんだろう。抱き上げやすいよう今はお腹にノッシリと置いているけれど、内蔵が圧迫されて苦しく感じるくらいには、その右腕は重たくなっている。


「フィオは気にしなくていいよ。お姉ちゃん、実はけっこう力もちなんだから。花畑のお手入れだって、力仕事だしねぇー」


「おぉー、力持ち」


「力持ちぃー」


(魔法でパパっと手入れしてるとこしか見たこと無いんだけど……。)


 なんて、そんなこと言ったらさすがにちょっと意地悪な気がするから、口には出さないけど。


 結局わたしは、家に帰るまでされるがままに抱き上げられていた。




 部屋についたらそのまま、ベッドに降ろされた。

 二人で寝るには十分な大きさに、程よい柔らかさのマット。屋根みたいに天蓋がついていて、そこから薄いカーテンが吊るされている。カーテンを閉めると箱みたいになって、自分の場所を持ったような気になれるので、わたしはそれが好きだった。


 今はまだ寝るわけじゃないから、閉めたりしないけれど。


「さ、て。それじゃあまずは、大変なことになってるその腕、なんとかしましょうか」


「はぁーい。お願いしまーす」


 身体を放って全部任せてみる。ヘトヘトでもう休みたい気分なのだ。わたしは。


「お願いしまーす、じゃないのよ。今回もフィオが自分で治すの。はい、起きて起きて!」


「うげぇー」


 ヒズミの魔法で変異した身体は、同じくヒズミの魔法で治す。

 一度こねた粘土を、また元の型にハメて元通りにするような感じだ。ただし使うのは型ではなくて、わたしの魔法だ。一応できないことはない。

 当然、戻すときのほうが大変なんだけど。


「文句言わない。これも練習だからね。お姉ちゃん見てるから」


「はーい……」


 ニアがわたしの右腕に手を添える。力の加減を間違えた時に手助けできるよう、そうして待っていてくれるのだ。

 仕方ない。休憩を一旦諦めて、魔力を巡らせる。


「今ある腕のことは忘れて。まずは、自分の腕の形をよく思い出すの。そう、元々魔力で作られたものだから、無駄な肉は勝手に消えてくわ」


 大きく肥大した右腕の中に、本来のわたしの細い腕を新たに作り出すイメージ。獣のような毛が細りだし、魔力が黒い霧となって消えていく。腕の全体が黒ずみ、細くなっていく。そうして少しずつ、元の形へと戻っていくのだ。


「上手になったね。……もう魔法の使い方、思い出してきた?」


「……んーん。思い出せたことなんてまだ、なんにもない……」



 そう、思い出せることなんて何も。

 わたしが思い出せる一番最初の記憶は、ここで目を覚ましたこと。


 三日前、わたしはこのベッドの上で目を覚ました。それより前の事は、何も覚えていなかった。初めは、熱を感じて眠りから覚めたところからだ。

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