84 また魔物退治。でもわたしは
さて買い物も済ませて、ルサルの町を出発。いよいよ、そろそろリディナ王国ともおさらば。
国境を越えると向こう側には検問は無いそうです。
今度は下準備がなくてちょっと楽。
次の目的地、自由都市ザーフィーはさらにその先にありますが、この辺りまではどこの統治が及んでいない。空白地域。
荒れ地が広がっている地帯です。
ただし……国の支配の及んでいない地域なので盗賊がでる可能性のある危険地帯でもあります。
魔物に加えて人間にも心配しないといけません。
でもそこを超えた自由都市ザーフィーは大陸でも屈指の大都市、そして町の人々で自治をしている都市でもあります。
曰く、諸々の娯楽が充実して誘惑の多い都市だから、旅の目的を見失わないようにーー。と
夕方になるころには最後の集落、カラボに到着。
聖なる森と湖の加護を受け魔物が少ないとの評判どおり、戦闘も全く無くここまできました。
「いやー、座ってるのも疲れた」
お尻さすりながらルビーさん。
馬車から続々降りてくる。
「はやく抜いてみたいですよ」
大事にシルヴァさんは例の購入したばかりの剣を抱えながら、眼鏡をずりあげます。
今日ばかりはお勉強もそっちのけ。
「ここは、教会も無さそうですね……」
さきほどのルサルに比べて、驚くほど閑散としています。
農村に毛が生えた程度の町並みです。
農作業を終えて帰宅の途につく、鍬鍬を抱えた村人たちがちらほら。
ルサルでは、あれほどいた冒険者も、この村ではわたしたち以外には、全くみかけません。
やはりこの次の待ち構える山越え荒野地帯を抜ける難所ルートは人がまばら。
リディナ城下町には、あんなに勇者冒険者が、いっぱいいたのに。
なんとなく、この世界における勇者ブームの底が見えているような気もします。
本気で魔王討伐を考えているパーティーはどれほどいることやら。
宿も一軒あるのみ。
まただし意外に頑丈そうな煉瓦作り三階建てで粗末なところではありませんでした。
旅人もわたしたちのみ。
ともかく、わたしたちが部屋で休んでいると部屋のドアがノックされ宿主さんが部屋に入ってきました。
「俺達に来訪者が来ている?」
「ええ、あなたがたに是非ともお会いたいと言っている人たちが来ていまして」
詳しく話を聞くとこの村からみえていた鉱山に住んでいるドワーフさんたちがこのカラボ村を訪れており、何やら勇者様に是非お会いしたい。ご相談がある、と。
また頼みごとですか。
しかし無碍に断るわけにはいきません。
金目当てのトレジャーハンターと勇者一行の違いはこの部分です。
またここで頼みを聞いて親交を深めて、その町でしか手に入れられない情報やものを仕入れたりすることも必要です。
「じゃあ、行くか。エレーナも一緒に話聞くか?」
「はあ、では……」
わたしもすることがあるわけではないので、ついていきました。
部屋を出て階下に降りると、件のドワーフさんたちが三人ほど。
「おお、あなた方がこの村にご滞在の勇者様ですか」
一番白い髭を生やした年輩のドワーフさんがちょこん、と挨拶。
おそらく見た目の何倍もお年がいっているはず。
素朴で飾らない雰囲気を醸し出しています。
「よかったよかった」
「最近はこの村を通過する旅する勇者様は、少ないと聞いていたので」
お供している残りの二人が頷きあいました。
身の丈は小さいですが、腕っ節は強く、鍛冶や工作などの職人芸は神のごとく……だそうです。また土木技術もこちらの世界では見事な技とか。
さきのリディナ隧道も、元は坑道として掘られた物を、そのままトンネルにぶち抜いたもの。
聖なる短剣も実はここで精錬加工されたもの。
そのえり抜きの出来映えのよいものを王様に献上されるそうです。
などなど……その技術と力でドワーフ族はこの世界では、貴重で大切にされているそうです。
「実は、わたしたちが掘っている鉱山で問題がありまして……」
さて、お話によると、このリディナ王国ドワーフ族さんたちが暮らしている集落は、この村から離れてさらに山の高いところ、坑道の入り口付近にあるそうです。
来る途中でみた、山頂のあの白い煙が見えるところがまさにそうだったのだとか。
「わたしらは、この鉱山から金属を掘り出して精製することを生業にしているのですが……」
「最近廃道となった坑道に魔物が住み着いてしまいましてな」
依頼は予想通りの内容。勇者一行のお仕事といえばこれです。
勇者様も、早速食らいつきます。
「ゴブリンでも住み着きましたか」
しかし、ドワーフの長さんは首を振って、顎の白い髭に手をやりました。
「いやいや、それぐらいなら、わしらでも対処できるのですが」
腕っ節の強いドワーフさんたちだから、ゴブリン程度なら、自分たちでなんとかできるでしょう。
「実はどうも坑道の一つから障気がでているようなのです」
普通、廃坑道は入り口を塞いでしまうのですが、いつの間にか開いてしまう。
どうも魔界からの障気がでていてそれが魔物を引き寄せているようだ、とのこと。
それを塞いで欲しい、と。
「発生源となっている廃坑道の奥に行くには、邪気を払う聖なる光が必要で……」
さらに穴を塞ぐにも聖なる力が必要です。
またしてもマリーさんの出番。活躍する機会が至る所にあるのは素晴らしい。わたしには遠い世界です。
だからこそプライドと自信に満ちあふれているのでしょう。
それにしても、また暗い場所。洞窟探索です。
「困っている、それを退治してほしい……ということでしょうか」
でも流石マリーさん、嫌な顔一つせず、おやすいご用、としています。
パーティーメンバー皆が頷きました。
断る理由はありませんしね。
「しかし、坑道はどれくらいいりくんでいるのでしょう?」
「わたしたちがご案内しますので、心配は無用です」
ドワーフさんたちも手を貸してくれるそうです。
雑魚どもは我々に任せろ、やっつけてやる。
これは頼もしい。
メンバーからは誰からも異論はでませんでした。
もちろん、わたしがここであえて反対する理由もありません。
坑道の魔物退治を行うことが決まりました。




