76 幕間 冒険者を追放されたけど何故か仲間になってくれてた天才美少女剣士が最強過ぎる⑧
「エンドラ、君はいいのかい?」
待ってるわ。
都に戻るなり、エンドラはルシオとは行動を別にするといいだした。
これから、冒険者ギルドに火竜討伐の成果を報告し、周囲を驚かせる。
冒険者稼業の者にとって最高の瞬間が待っているはずだった。
だが、ルシオが寝泊まりしている長期滞在向けの安宿の場所を聞き、そこで待つという。
「わたしの性にあわないからーー行ってきて」
「そう……かい。じゃあ……」
二人はそこで一端別れた。
報酬を受け取りに行ったルシオは安宿へ帰ってこなかった。
帰ってきたのは翌朝。
エンドラはルシオが寝泊まりしている部屋で待っていた。
「遅かったのね。ルシオ」
ルシオはまだ酒に床にひざまづく。
許しを乞う姿勢だった。
「ごめん……エンドラ」
また泣き出した。
討伐の報告をした。
冒険者ギルドでは、生まれて初めての賞賛の嵐で迎えられた。
一気にギルド内でのランクもアップすることが告げられた。
あのルシオが。
やりやがった。
おまえら、すげえな。
そして敬意のまなざし。
初めての誇らしい
ルシオの評価は一変した。
冒険者でも一目を置かれる存在にーー。
だが、ギルドで高額な報酬を受け取って帰ろうとした途端に、ガンガの手下に取り囲まれた。
借金の返済を要求された。
もちろん、報酬から十分返すことはできた。
だがそれで終わらなかった。
せっかくだ。祝いの酒を飲みに行こう。
そして、黄金の三日月亭で、盛大なパーティーが行われた。
もちろんルシオの奢りで。
何度も他の客へも振る舞って乾杯をした。
さらには人気の踊り子を呼び出した。
「よう、せっかくだから行こうぜ」
「英雄様なんだから、ケチケチすんなって」
さらにガンガの賭場に誘われた。
まだ残っているから、ちょっとぐらいなら。
ルシオは都に来てからというもの、ギャンブル癖がついてしまっていた。始まると抜け出られなくなる。
止まらない。
翌朝には、すってんてんになってしまった。
「また来てくれよ」
報奨金をそっくり奪われてしまった。
利子を含めて理由をくっつけて。
手元にはほとんど残らなかった。
エンドラは微笑を浮かべたままだった。
「そうだったの、それで帰ってこなかったのね、ルシオ」
手をついて詫びた。
「ごめん、エンドラ。僕は愚か者だ……」
エンドラに渡す分ももう無い。
「心を入れ替えるって言ったのに……」
うふふ、と笑った。
「そんなこと、気にしなくて良かったのに」
次の冒険に行こう。
お金などどうにでもなる。
ルシオはエンドラの言葉に胸が震えた。
「君は……」
その顔が
「昔、故郷のばあちゃんがよく言っていたんだ」
「愚か者に優しい言葉をかけてくれるのは天使か悪魔だ」
「エンドラ、君はきっと天使なんだ」
言った後に、恥ずかしいことを言ったと思った。
やっぱりエンドラは笑っていた。
「ふふふふふ」
そして応えなかった。
「それより……ほら。ルシオ、あなたに会いたいという人が来ているのよ。さっきからずっとあなたの帰りを待ってるわ」
「僕に?」
部屋に招き入れた。
すると既に部屋には二人の若い男女がかしこまっていた。
椅子に座っていたが、立ち上がり緊張した面持ちだった。
「あ、あなたがルシオさんでね」
「……噂を聞いたんですっ」
ルシオを見る目が英雄を見る目だった。
聖職者。帝国教会の枢機卿の娘。すごい素質を持っている。
「火竜を倒したという噂を聞きまして……」
「もし、まだ空きがあるなら、あなたの是非メンバーに加えていただければ」
初老、魔法使い。
こちらも経歴がすごい。
「お金以上のものをあなたは手に入れたのよ」
火竜を倒したという噂は広まっていた。
認められたのだ。
「ど、どうしよう? ルシオ」
「グループに入れるかどうか決めるのはあなたよ、ルシオ。リーダーなんだから」
ルシオは思った。僕は本当に一行を率いる勇者だ。




