7 魔法使いとの付き合いは大変
とまあこんな感じの初対面で、彼女はとてもいい子です。
趣味のアクセサリー収集に没頭する癖さえなけば。
これは困りもの。
今も首飾り、腕輪、指輪、様々な装飾を身につけています。
帽子にもたくさんの紋章や飾りがついていています。
それが魔術師として必要な呪術用具なのか、単なるアクセサリーなのか傍目からはわかりません。
「あ、その腕輪……今までつけてませんでしたよね。新しく手に入れたのですか?」
退屈しのぎに思わず、彼女の腕に光るものを呟いてしまいました。
あまりの退屈のために、それが地雷であることをすっかり失念していました。
「おぉ、エレーナ殿、流石お目が高い。この価値がわかりますか」
その青くてつぶらな眼がぱっと輝きました。あれは、ようやく獲物が罠にかかったか、というような輝きです。
「この青翡の腕輪、これを手に入れたときは、さる大魔法使いの家系で今は廃れてしまった一族の屋敷に眠っていたのを、一ヶ月通い詰めて譲り受けたんですよ。魔力が少しだけアップするのです。価値はそれだけではなくて数々の人の手を渡り歩いてきていろんな逸話があって……これを持った家や一族一党は廃れてしまうという……」
今も趣味の魔法術式の古本やアクセサリー集めを熱く語ってくれます。この腕輪は青、黄色、赤の三種類あって全てを手に入れるとさらなる相乗効果が得られるのだとか。青は素早さが増す。赤は相手の動きを止める。 黄色は……。
「なるほどなるほど、それはそれは」
実際のところ、退屈しのぎにささやいただけで、それほどそこまで興味はないし、その価値はまったくわかりません。
「しかし、こっちの精霊の指輪の方が手に入れる時は、もっと苦労して……何日も洞窟の中を駆け回ったんですよ」
「そ、それは、す、凄いですね」
マシンガンが止まらない。
「お、そうそう、ずっとしまったままにしている黒曜石の指輪があるから、可愛いエレーナ殿に譲りますですよ。運気があがるから、きっといいいことづくめに……」
脇に置いてある自分用の袋をごそごそとした後に小さな指輪を取り出しました。
ぐいっと目の前にその円らな瞳と綺麗なお顔が。
ただほど高いものは無し。
骸骨があしらわれた毒々しいデザインの指輪は、特にアクセサリーにも女性の嗜みにもあまり関心が無い私にとっても遠慮したいものでした。
どっちかというと運気が逃げそうだし呪われそう。
ここは丁重にお断り申し上げたい。
「いえいえ、そんな大事なもの、シルヴァさんから悪いのでお気遣い無く」
地雷を踏んだわたしも悪いのですが、ルビーさんに助けを求めることにしました。
ちらり。
「……」
生憎、ルビーさんは鼾かいて寝ていました。
甲冑は脱ぎ捨てて上半身は下着一枚です。今魔物に襲われたら真っ先にやられそうです。
でも熟練戦士の彼女のすることなのだから、わたしがどうこういうべきではないですね。
残念ながらシルヴァさんの趣味には私がつきあうしかないようです。
「いやいや遠慮することないですよ、エレーナ殿」
ぎらぎらした眼に最終的に負けました。
結局指輪は受け取ることにしました。
「あ、ありがとうございます」
両手で指輪を受け取ります。
当然期待の眼差し。填めてくださいという意味です。
はいはい。わかりました。
「ど、どうですか? こんな感じでしょうか」
そしてその毒々しい指輪を左手薬指に填めたらとても喜んでくれました。
「似合うですよ」
ほっこり笑顔をされてしまうと、嫌な顔もできません。
まあ喜んで貰えたのでよしとしましょう。
「うわ、エレーナ、似合うよ」
ぱちぱちぱち。
いつの間にか起きていたルビーさんが誉めてくれました。
途中から起きていて、狸寝入りしてましたか?
「エレーナさんもこうしてみると素敵ですね」
さらに拍手がぱちぱちぱち。
気むずかしいマリーさんもわたしに賛美の声を送ってくれます。
沼に引き吊り込まれまいとしているわたしをさらに沼に押し込むような。
「みなさん、ありがとうございます」
頑張って誉めてくれて。
先に言っておくと運気があがった気配はその後も感じることはありませんでした。