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64 聖なる森のエルフ伝説

 朝も早く、兵士さんたちにお礼をいいつつ出発します。

 昨日までの薄暗く気味悪い坑道越えとはうってかわって、辺りは明るく穏やかです。


「ああ、綺麗……」


 ほんの数日暗闇の中にいただけですが、朝の光のありがたさ。それだけで心が安らぎます。

 険しかった反対側とは違って、こちら側はどこまでもなだらかな山並みです。それにそって、ゆっくりと山裾へと下って行きます。

 その途中、どこまでも広がる美しい森がわたしたちの前に広がりました。

 その景色に、大自然には慣れっ子の我がメンバーたちも感激してしまいます。


「すげーな、これがリディナ王国にあるという聖なる森か」


 その名のとおり、森の気配が全然違います。

 不穏な気配はなく、どこまでも静かで穏やかなのです。

 魔物は出ないと断言できます。

 そして天高く延びる木々は、雲のように空を緑で覆っています。

 その天から漏れてくる木漏れ日の光がきらきらと降り注ぎ、いくつも小さな川が流れ鳥や動物たちがのんびり行き交っています。

 小さな池のほとりでは、魚がぴちゃっと水面をはねました。

 各地の言い伝えに詳しいシルヴァさんの解説によると、神聖な森から湧き出る清らかな泉は邪気を払う効力があるそうです。

 そして聖なる森はエルフさんがいます。

 なので、またの名をエルフの森と呼んだりします。


「ここって伝説の勇者がエルフに見いだされた場所だよな」


 わたしたちの自称勇者様も、わくわくしながら古の物語を口にします。 

 いにしえの勇者も、ここで出会って、大事なエルフの紋章を授かったのだとか。

 その他にも数々の貴重なアイテムをもらい、魔界に行ったとかなんとか。


 何度も何度もおばあちゃんから聞かされ、その度に勇者の英雄譚に胸を躍らせ、いつか自分も旅に出ようと決意したんだそうです。

 勇者、戦士、魔法使い、聖職者、そしてエルフ。世界を旅して魔王を倒した数々の言い伝え。そしてそれらを脚色した物語。

 男の子ですねえ。

 わたしも前世男の子でしたがね。


「一度でいいから見てみたいなあ……」


 こと、エルフに関する伝説は、この大陸共通で語られる偉大な言い伝え。

 老若男女、誰もが一度はあこがれます。

 そのお姿は美しい、麗しい少女で、さらに人間とは比べものにならないぐらい長寿。母なる森を守護し、また魔法や剣術も、いずれも人間とは比較にならない、とか。

 そしてとんがりお耳。

 

「そうだよね、いないかなあ」


 ルビーさんもキョロキョロ森の中を探します。


「はは、会えるわけ無いですよ」


 シルヴァさんも、そういいつつそわそわしています。明らかに心底期待しています。

 まったく……。

 東京に来たからって芸能人に会えるわけじゃないし、田舎にいったからって兎追ったり小鮒釣ったりするわけではないし。


「エレーナも、会いたいだろ?」

「ええ、まあ、それは」


 もちろん、一度は目にしたいのが正直なところですが、きっとそれは無理筋な話でしょう。

 遭遇した人はこの地上にはほとんどいません。会った人がいれば、その人が言い伝えになってしまうぐらい。貴重、簡単に人前に出てきません。

 警戒心強いどころか、とても人間を疎んじる種族です。

 わたしたちクラスの勇者一行では、エルフさんたちに相手にしてもらえるには、まだまだ。もっと経験と徳を積み、格式高くならないと、ああいうハイレベルの存在とは会うことができません。

 また勇者様のお供をしていればいずれ会うチャンスができるのかもしれませんが、あいにく下位職のわたしはそこまで長旅をつきあうことにはならないはずです。

 どうせわたしは、会えません。

 諦め気味に眼鏡を外しました。

 

「あ、エルフだっ」


 ルビーさんが叫びます。

 やれやれ……。

 だから、そんな森の神聖な存在と簡単に会えるわけないじゃないですか。

 会えないから、おとぎ話、伝説の存在なんです。

 神聖な勇者の武器を手に入れて、魔王にとどめを刺す禁呪を覚えて魔界の邪気を払う法力を授かった時に、初めて魔界への扉を開く紋章を持つとされる、エルフに会えるのです。

 ブロンドの髪と、尖ったお耳は遠い存在です。


「嘘だろ……本当だ」

「あ、待ってっ」


 目のよくきくルビーさんが、走り出しました。

 わたしは、勘違いと決めつけていますが、三人が、わいわい騒いでいます。


「ああ、いっちゃったですよ」


 けれどもすっとまた森の中に消えてしまいました。

 いやー、綺麗だった、と口々に言っています。

 

「俺たちのパーティー、なんかついてるよな」


 興奮気味の勇者様。

 言い伝えによるとエルフは悪戯好きでもあるそうで、きっと何かの気まぐれで姿を見せたのだろう、と。


「エレーナは見られなくて残念だな」

「まあ、そうですね」


 わたしは、気のない返事。

 ちなみに、わたしは眼鏡をふいていて、よく見えませんでした。

 かけ直してみた時には、その姿は消えていました。


「わたしたちは神の加護を受けているに違いありません」


 マリーさんもその場にひざまづいて、手を組んでお祈りを初めてしまいました。

 どうやら見えなかったのはわたしだけのようです。 


 あれから、うちのパーティーはエルフさんの話題でもちきり。

 

 いやー、遠目でもすごい神々しかった。一瞬だったけど。

 もう一度みたいですよ。

 今晩は上手いお酒が飲めそうだ。飲みたいねえ。

 エルフ様。ありがたや、ありがたや。


「……」


 すっかり仲間外れです。

 ま、別にいいですけどね。


「おい、エレーナ、さっきから何キョロキョロしてるんだ」

「まさか、あれだけ言っておいて本当は見たかったなんて、ないよね」


 皆さん、優越感に浸っています。

 結局、その後はエルフさんは姿をみせることはありませんでした。

 ふん、きっと気のせいか見間違いでしょう。

 悔しくなんかありません。


 エルフってシャイニング・ソード・ワールドシリーズでも、定番キャラで、ゲームバランスを崩すぐらいに強いんですよね。決まって後半仲間になると、今までのキャラ育成がなんだったんだろうと思うくらいにけた外れの攻撃力と魔法力を持っています。

 なんちゃら実況とかでは大抵エルフ使わない縛りになります。

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