58 死闘
死竜はこっちに向かってやってきます。
骨だけなので、声を出すことはできませんが、何か吼える動きをみせます。
そしてガラガラガラと骨が軋みあうすさまじい音を立てながら、こっちにやってきました。
ずしん、ずしん。と。骨の重みだけでも相当です。
鍾乳洞が壊れそう。
また別の意味でやばい。
「ほら、こっち来いよっ」
挑発します。
ひきつけた勇者様がギリギリ体当たり攻撃をかわしました。
ただ、剣は振るいません。
切りつけても骨ですので、効果ありません。攻めようがないのです。
さらに相手は尻尾の部分も使ってなぎはらおうとします。
ぶんっと風が巻き起こるぐらいの勢いでーー。
「うおっ」
すんでのところでかわします。
「うりゃああああ」
その隙に、ルビーさんが斧を振りかざします。
そして骨を砕かんばかりにたたきつけました。
バシっ乾いた音がしました。
足の骨の部分にヒビを入れることができましたが、相手は痛みなど感じません。死霊は物理的ダメージはほとんど意味がありません。
粉々にしなければーー。
「ち、駄目か」
珍しくルビーさんは舌打ちしました。
思ったよりも堅い、とルビーさんが叫びます。確かに怪力は定評のあるルビーさんの打撃で耐えるのは相当な強度。
コキコキ音を立てて体勢が変わります。
死竜は今度はルビーさんに標的を変えて、攻撃を加えます。
長い首をカタカタうねらせて、骨だけの顔が、ぐわっと開きます。
あれに食いちぎられたら大変です。
「ちっ」
かわしきれないーー。
そう思った瞬間に、ルビーさんはそのまま正面に、突進します。
足下をくぐり抜けた。
骨格上、後ろ向きに振り返るのはつらいところを利用。
さらに走り抜きざまに、また斧で一撃。
ちょっとだけまたヒビを入れることができました。
想像以上に強い。
どちらかというと、勇者様、ルビーさん、劣勢。
このままだと、二人、やられてしまいます。
二人が必死に引きつけている間に、残りのマリーさん、シルヴァさん、その間に二人が魔法を唱えました。
マリーさんは法術の光を使いました。
これまでよりより一層、眩いばかりの光の玉が、死竜に向かって放たれます。吸い込まれるように死竜に命中しました。
「魔界へ戻りなさいーー」
続いてシルヴァさんが、魔術の炎をーー。死体たちを死竜ともども、焼き払います。
「焼き尽くせ、不浄な肉体をーー」
辺りが光と揺れる炎で眩しく照らされます。
「うひゃあっ」
思わず目を手で覆います。
マリーさんの渾身の法術の光を受けて、死竜はガタガタガラガラと顎をならします。
そして全身の骨を振るわせました。うなり声にも聞こえます。そして崩れ落ちる。
死体たちは、シルヴァさんの炎でうなり声をあげてその身を焼かれます。
確かに魔法はそれぞれ相手に直撃しました。
蠢く死体は例のごとく綺麗に焼き払いました。
「やったか!?」
勇者様が、徐々に間合いを積めていきます。
ルビーさんもーー。
そして戦果を確認しますが……。
けれども、肝心の死竜の方は、というと、光と炎が収まると、またカタカタ音が始まりました。
「ひえ、まだ生きてる!?」
効果が無かったわけではありません。
けれども、死竜は法術を受けて、バランスを崩し、倒れただけで、ばたばた地面でもがいているだけです。ダメージを決定的に受けた様子はありません。
やっぱりかなり強力な魔物のようです。
「もう一つ、上のクラスの法術の光が必要なようですね」
マリーさんは、その様子を見て、ため息をつきました。
「ど、どうするんですか?」
「どうするって……逃げるしかないですよ。もう他にやることありませんから」
しれっと答えます。
万策尽きた、ということみたいです。
物理攻撃も、魔力も法術も駄目。




