57 暗闇はまだ続く
「ちょっと、数が多いですな」
シルヴァさんが、珍しく音をあげます。
絶え間なく炎の魔法を発射。
死体を次々に焼きます。
マリーさんも疲れが見えました。
法術の浄化の光もやや息切れ感があります。
「これは……結構きついですわ」
がんばれ、がんばれ。
声援を送るしかできません。
あ、でも途中で、なんとかDみたいに元気付けの薬品の瓶を差し入れました。ポーション的なものです。シエレンの町で買い込んでて正解でした。
「ど、どうぞ」
「ありがとう、あー、美味しい……」
法術を展開中なので、横から飲ませて差し上げました。
「エレーナ殿、こっちも」
「は、はい……」
シルヴァさんにも。
炎の魔法を使っていて熱そうでしたので、汗を吹いてあげました。
汗を拭く間もないのです。布で額を拭います。
手術中のお医者さん看護師さんみたいですね。
なるべく骸骨はみないように。
ようやっと、終わったころには、わたしの精神力もくたくたでした。
「ふう、終わった……」
「なかなかやっかいでしたね」
ようやく暗闇の中に静寂が戻ってきました。
再び出発。
本当は休みたいところですが、こんなところで休憩しても気も落ち着きませんから、また死霊がやってくることもありますし。まだ疲れていながらも、また歩き出します。
坑道越えはこういうところがつらいです。
暗闇、また暗闇。
松明の燃料は十分過ぎるほどに用意していますので、これが尽きることはありません。
もちろん、シエレンの町で大量に買っています。
万が一松明の明かりが消えてしまったら、それはもう最悪。
さらに一時間ほど過ぎると、大きなところへ出ました。
ここは手堀りで掘った場所ではなくて、元々あった空洞のようです。
すごい鍾乳洞です。
天井から氷柱のようにぶらさがっている鍾乳石、あるいは床から剣山のように突き出ているやつ。
はたまた、きらきらと鉱物が光っていました。
途中、地下水がちょろちょろ流れていて、川のようになっています。
小さな橋が架けられています。
幸いにも、腐ったり崩壊しておらず、通行できました。
「うわー、凄い」
そして古びた看板が。
出口まで五百メル。
そんなに遠くない距離です。
もうすぐ坑道を抜けられる。
そんな安心しきった時でした。
ずしん、という鈍い音とガタガタ、っという乾いた音ーー。
鍾乳洞が、少し崩落する音がします。
「な、なんだ?」
何かが暴れている音がします。
ぱらぱらと天井から崩れた石がみなさんの頭や肩にかかります。
-
それを払う暇もなく、またずしんずしん、という足音みたいな音がします。
松明をかざすと、とんでもないものが暗闇の中から見えました。
これまでとは比べものにならない魔獣。いってみれば中ボスです。
骨だけの竜がうねうね暴れていました。
「まさか……」
「死竜!?」
「うひゃああ」
気持ち悪い……。
「魔界でも邪悪とされる存在が、なんでここに……」
勇者様も意表を突かれたご様子です。
「はっやってやろうじゃん」
しかしルビーさんは怯みません。手に唾して斧を握り直しています。
大敵を前にすると燃えるのが戦士さん。極限に追い込まれれば追い込まれるほど、死地に立てば立つほど張り切り出します。
わたしなんかとは全然違います。もって生まれた気質が違うのです。
今は無いですが、もしあったらアソコがすっかり縮みあがってしまいそうです。
「これは……厄介な相手ですな」
シルヴァさんも、魔法の杖を構えます。
「ホーリーを使う法力、もう残り少ないんですよね」
聖なる錫杖を、しゃらん、と鳴らします。
この世界で物理法則とか考え始めると、正直寝られなくなります。
「死竜は魔界にいる存在のはずですけど……」
とにかく死竜がここにいるのは事実ですしーー。
それに動く死体も……また湧いてきています。
強力な魔物には引き寄せられるのです。
「いけるか? マリー」
勇者様も流石に確かめます。
「やってみるしかないです、勇者様」
死霊と聞いてかえって肝が座るのは流石マリーさんも聖職者です。
「こっちも同じく」
シルヴァさんも同じく。




