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47 依頼は断れません

「コボルトに悩まされている!?」


 相談はコボルトの件についてでした。


「そうなのです、ちょっと前から牧場に出てくるようになって、羊や鶏たちにちょっかい出すのです」


 せっかく耕した畑の作物も荒らされ、挙げ句に農作業用の水車も壊される悪戯をして……。

 夫婦にとことんちょっかいを出してくるようです。


「なんとかなりませんでしょうかね」


 奥様の方も懇願する目を向けられます。


「ああ、もちろんもししていただけたら……宿代は要りません」

「なるほど……そういうことであれば」


 いつになく真剣な表情です。

 あの畑の一部があれていたのもそのせいでしたか。

 作物をやられてしまっていたのですね。

 わたしたちは、宿代を払うのにも事欠いているわけではありませんが、親切にしていただいてたお二人のたっての頼みならば無碍にできません。


 ちらっと勇者様がわたしたちに目配せします。

 審議開始の合図です。

 わたしたちの勇者様は決して独断専行ではないのは良いところです。

 愚痴ったり、ぼられたりもしますし、時々頭に血が上って突っ走ることもありますが、基本意見を取り入れつつやっていきます。

 今回も、私たちの意見を聞きたい、ということです。

 私も、メンバーの一員として、また道具士の立場から思案します。

 旅が遅れていることと、コボルト退治の面倒くささを考えたら、わたしの立場としてはマイナスの行動であることは確かです。

 頼まれたら断るわけにもいきません。勇者様である以上。弱きを助け強きを挫くのが原則です。もちろん例外もあるのですが。

 それらを加味すると自ずと結論は決まります。


 勇者様は頷きます。マリーさんはもちろん、シルヴァさんも、このところ、魔物との接触もなく、力を持て余しているルビーさんも同意しました。

 わたしも空気を読んで頷きました。

 全員一致。

 ということで、コボルト退治が決まりました。



 コボルト。

 この世界特有の人間に害をなす存在です。

 魔物の一種であり一方で、人に近い姿をしています。

 小柄で、すばしっっこいのに老人のような顔が特徴。

 が、コミニュケーションは一切通じず、人とは相容れない存在であります。

 ただし、人間世界の環境には適応しています。


 そして山や森の中に普段は潜んでいるのですが、悪戯、泥棒などを働き、しばしば片田舎の人間の生活を脅かします。

 この奇妙な人に似て非なるものは、教会のありがたい教えには神様がこの世界をお作りになった時に光の世界を人間に与え、闇の世界を魔族に与え給うた。

 そしてその世界にそれぞれ相応しい姿と力を授けた。

 その時の、失敗作がコボルトだとか。酷い扱いですね。

 魔界にも人間の世界のその両方に住んでいるけれども、そのどちらの世界でも片隅にひっそりと潜むように暮らしている種族です。


 そして、人が住めないような荒れた土地などに住んでいて、時々人里に出て来ては、羊や鶏を盗んだり、人間を困らせます。

 といって普段であれば、わざわざ勇者様がわざわざ出向くまでもない存在です。

 一体一体は強くなく、人間社会そのものを脅かすことはありません。

 甚大な影響を出す昨今巷に蔓延る魔界の魔族魔獣とは比較にもなりません。

 また人が多い街には決して近づきません。このような田舎の一軒家がよく被害に遭います。

 コボルトの被害が頻繁する地域では、定期的に各王国の兵士部隊による駆除が行われますが、最近はより強力な魔物の出現により、なかなか手が回らない。

 といって、被害はせいぜい家畜ドロ。

 確かにコボルト被害は放置される傾向はあります。


「裏の山に続く道からやってきているようなんですが……」


 老夫婦ではそれ以上は危険と判断して、入っていかないそうです。

 人を襲うことはないのですが、こちらから駆除に出向くと流石に彼らも生きている種族。

 必死に抵抗してきますし、うっかりすると命に関わることもあります。

 ただ慎重にやれば、まず大事にはなりません。 

 ある程度大きな村や集落では、自警団を組織して警戒にあたったりするのですが、このような孤立農家では、なかなか対策といっても対症療法でしょう。


「それが賢明ですね」


 シルヴァ

 うちの勇者パーティーの経験値からいって、万に一つもミスはないぐらいのレベル。


「あとは俺たちに任せてください」


 勇者様が、俺たちに任せろ、と胸をたたきました。

 一番いい部分は勇者様が持って行きますし、わたしたちもそのようにし向けるのです。


「ありがとうございます!」


 拝まんばかりに勇者様に、お礼をいう夫婦。

 泊めて貰っているのに、立場は逆です。


「明日は頼んだぞ、みんな」


 こういうとき、勇者様は輝いています。

 まさに勇者冥利につきるようですね。


「よし、お休み、みんな」


 夕食が終わり、老夫婦との歓談も終わり、部屋に戻りました。

 勇者様がロウソクの明かりの火をふっと消しました。

 明日することが決まったせいか、夕食を済ませるとすぐにベッドに入って寝てしまいました。

 久しぶりの柔らかいベッドに、シルヴァさんも本を広げたもののすぐに寝落ち。

 ルビーさんもお酒はほどほどに寝られました。流石に明日は仕事とわかっていてベロンベロンに酔っぱらった状態で挑むほどには壊れてはいません。そこまで見境無くお酒飲むようになったらアル○です。

 よいことです。

 

 わたしも、やや不安を覚えつつベッドに潜り込みます。


「おやすみなさい、勇者様」


 こちらはこれでもそれなりに経験を積んだ勇者一行ですので、その点不安はないのですが。

 失敗は万に一つもありません。

 でも……。私にとってはオークなり、魔界のデスジャッカル辺りの退治の方がむしろ良かった。

 ……コボルト退治の場合、私も行かないといけないのです。

 金銀宝石に目が無いという特性を持つコボルト。そのために、私にも出番があります。


「明日は頼んだぞ、エレーナ」

「はい」


 ああ、ちなみに今日も勇者様と相部屋です。

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