44 次なる目的地へ
シエレンの町を出発して、もう五日目。
途中雨に降られましたが、今は快晴。
わたしたち勇者一行は、次の目的地、リディナ王国を目指します。
さて、今の私はというと、馬車に揺られながら、書類の作成中です。
「手紙?」
「はい、皆様も考えていただきたいんです」
筆を使って必死に今、紙に書いています。揺られながらなので、結構つらいですが、今やっておきたい。もちろん、後で清書しますけど。
「リディナ王国では、特に未来ある勇者と認められたパーティーには、王様から貴重なリディナ産の金属を使った聖なる短剣を下賜されますので、なんとしても王様にお会いしたいのですが、その審査が厳しいらしいのです」
シエレンで得た情報です。組合の商人さんから教えてもらいました
勇者に対する審査、決してリディナ王国が特別というわけではなく、どこの国でも王様は誰彼構わず、会ってくれるわけではありません。
きちんとした身上であることを示さないと、どこのごろつきかもわからない集団には会ってくれません。
どこ出身で、実績、旅してきたもの、そして魔王討伐の志。
それらを証明する成果物。
諸々のものを示す必要があります。
そして、それを申し立てる書類。
そういうものを準備するのもわたしエレーナの役目でございます。
「リディア王国国王陛下へ。
わたしたちは、地上にはびこり始めた魔獣たちに脅かされる人々を救うため、またその根元たる魔王を討伐せんと世界を旅しております。
……云々。
最後にどうか偉大な国王陛下にお力添えをお願いします」
要は金目のものをください、という要請です。
「とりあえずたたき台を作ったので、あとは、何か、誇れるようなもの……」
グラスタニアの勇者証だけでなく、アレスの神殿での勇者の誓い、少し前に魔物がいる洞窟内を探検して、見つけだした古代勇者時代の壷。
とある村で魔獣を退治して、感謝の証に貰った名人が作った絹の服。
などなども一緒に示そうかと思います。
「それでは、これなんかいかがですかね? 旅の合間に研究の末に作りだしたやせ薬」
「それは結構です」
研究力はわかりますが、魔王討伐とは関係ないですね。
「わたしの教会のペンダントなどはーー。たくさんの寄付をした証として」
「それも結構です」
善行であることはわかりますが、わたしたちの旅の趣旨とは違う使い道です。
「あ、あたしが大事にとってある秘蔵の高級酒……」
「かえって怒られますよ」
お金が飲み代に消えたと知ったら、わたしもぶちぎれます。
まあ実際、お金目当ての詐欺紛いのグループもはびこっているのも確かです。
悩ましい。
まだ時間はあるので、考えないと。
さて。
旅の方はといいますと、本日もまた峠越えです。全体的にわたしたち一行のとっている進路は、山の多い地域のコースを通っています。山また山。
この地方は、荒涼たる岩山が結構多いのですが、今回通る道もまた相変わらずの荒野です。さらに魔物も多いルートです。
ひたすらグラウンドキャニオン。行ったことは無いですけど。
ただし、ここを越えてリディナ王国へ入ると、緑豊かな美しい土地に変わるそうです。
それまでは、急で危険な山道、渓流がも多く悪路となっています。
その部分に関しては今回の旅程はちょっと辛いところです。
でもどうしてこんな山道ばっかり行くのかって?
一応は帝国に至る道は、平野つたいにゆくメインの街道があるにはあるのですが……そっちは人通りも多いし、安全です。
でも、それはただ通るだけで、意味がありません。
勇者にまつわる言い伝えや立ち寄るべき遺跡、魔物が出現する洞窟の類は圧倒的にこういう片田舎、山岳地域に位置しています。
そういうところに立ち寄り、難敵を倒しながら進むのが勇者一行というものです。
もっと言うと、海路を取れば波に揺られて一ヶ月で帝都についてしまいます。が、それでは何も意味の無い旅です。
勇者としての経験を積む、どれだけ旅の内容を濃いものにするのかも大事です。
この退屈極まりない、ガタガタ揺れる馬車での旅も、それなりに意味があるのです。




