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37 最後の防衛線

 三人の狼を退け、ようやく宿の前まで戻ってきました。

 途中でドーナツに似たお菓子を買ってかじりつきます。

 もちろん、自分のお小遣いですよ?



「勇者様、どうしたのですかーー」


 最後に真打ち登場です。

 勇者様の見事な土下座です。


「勇者様、おやめください。他の人が見ていますよ」


 道行く人が、またわたしたちをやばい人たちだと見ていますよ。

 それに絶対何か下心があります。何を企んでいるのでしょうか。

 勇者様は確かに聖剣と聖なる鎧を来て、みんなから憧れる男の子たちの夢です。

 しかし……鎧を脱いで床におけば、ただの田舎のヤンキーです。


商人エレーナ様、どうかお願いを聞き届けてくれないでしょうか」


「わかりましたから、それで、何をお望みなのでしょうか」


 話が早い、とイケメンな笑顔を見せて私に抱きついてきます。

 さすがエレーナ、元おっさんだから話が早い、と。

 頬ずりされました。


「はい? 遊び(ハーレム)に行きたい?」


「ああ」


 と爽やかな笑顔を私にくださいます。


「どういうことでしょうか?」


「俺は……毎日気を使っているんだ」


 愚痴から始まりました。

 要は女性ばっかりのパーティーで気をつかって疲れるといいたいのです。まあそうでしょう。毎日朝起きて食事して外出して戦って、そして寝るときまで常に一緒なので、相手の見たくない部分もよくない部分も見えてしまうのです。夫婦ならそれもよいのでしょうが。安らぐ時がない。

 部屋も同じですからね。これは結構精神的に辛い。


「でも旅の最初は喜んでたじゃないですか」


 おっぱいばっかり見てたのを私は見落としてませんよ。


「中途半端にハーレムなんて、ろくなことがないし、女性ばっかのパーティーは疲れる。今は後悔している」

「はあ、しかしこうなってはもうなかなか難しいのでは」

 旅先でのメンバーの一部変更はあっても総入れ替えはなかなか難しい。

「だからだっ」

 くわっと目を大きく見開きます。

 ストレスの発散が必要だということです。

「こういうことを頼めるのは……エレーナ、お前しかいないんだ」

 お互い異性としての関心は持っていない。加えておっぱい星人、大人な人が大好きな勇者様にとってわたしは対象外。

 喜んで良いのやら怒るべきなのか。

「それは光栄です」

「エレーナは前世はどっかの世界のおっさんだったんだろう、ならこの気持ちはわかるだろう」

 若い男の子のほとばしる欲情を理解してほしい、ということのようです。

「まあ、わからないでもないです」

「だろ!?」

「勇者様は今年17ですからねえ……」

 私は15歳ですけどね。前世を入れるとしたら48歳にはなりますが。



「お願いします! お小遣いください」

「しかし、これ以上は……それに帳簿には記載しないといけないですよ。女遊びって書かないといけないのですが」

 リーダーの勇者様が必要であるというのなら、断れないのですが……。説得します。

 見つかったら、他の皆さんの要求を断った手前、なんと言ったらいいかわかりません。

「他の奴には俺から説明するからさ」

 なるほど、その時には、勇者様が説明責任を取ってくれるというのです。それは安心です。

 その梯子、外されそうですが。


「だって、俺が稼いでるんだぞ、誰が養ってると思うんだ」


 どっかの飲んだくれDV親父の台詞ですか。


「いつもおいおい……」


 今度はおきまりの泣き落としです。


「はいはい、いつも大変ですもんね」


 根負けして、勇者様の望みに答えることにしました。


「じゃあ、一応前払いということにしておきましょうか」


 定められたお小遣いの前払いならば、勇者様の元々のお金ですから。

 一応帳簿に女遊びと書かなくても済みます。


「本当か!?」


 朝三暮四。素直に喜んでくれました。


「流石エレーナ、やっぱり前世おっさんは最高だな」

「はあ、ありがとうございます」


 女遊びをしたい。これまた正直です。

 きっとこれから、情勢調査と称して盛り場かどこかへ行くつもりなのでしょう。踊り子や酒場のお姉さんをひっかけているのが目に浮かびます。

 一見ハーレムに見えるけれども、結構わたしたちに気を使っていることの反動だとか。

 いつもの遊びでは飽きたらず。


 わかりますが、一応今は女の私にそれをやらないでください。

 男の気持ちがわかりすぎるキャラでやってきたせいか、遠慮なくずけずけやられても困るんですけどね。


 といっても……確かにうちの収入は皆さんの頑張りのおかげです。

 勇者様一同、何も聖人君子でなければいけないとは思いません。

 元々、二十歳に満たない田舎の純朴青年なのですし、禁欲的でないと駄目ともいいません。

 ストレス発散と快楽も時には必要でしょう。

 それに、最近の勇者様の草食っぷりも心配していたところですので、まあ、これはこれで安心しました。


 一旦宿に戻ります。


「さあ、どうぞ。勇者様」


 金庫を開いて、数枚の金貨を渡します。

 金庫といっても、そんじょそこらの金庫ではありません。この世界では突破はほぼ不可能である商人専用の金庫です。

 鍵開けの特殊な能力が必要でそれは商人としてギルドの公認を得たもので、どんな怪力でも魔法でも開けられない金庫。

 数少ない特殊能力です。

 金庫番はその代わりに決して嘘をついてはならないのと、どんな火力を使っても燃えない特殊な帳簿。

 これらで金の管理をするのが商人のスキルを持つ者の役割の一つです。

 財務大臣と経済産業大臣を兼務しているので、発言権は大きいんです。


 ことお金となると結構本音が出ますしね。勇者様の普段の姿をみたらどれだけがっかりするか。

「あ、ありがとう!」

 パンパンと拝んで出ていきました。

 だったら二礼二拍手一拝をやったらと思いましたが、残念ながら幸いしませんでした。

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