31 いざシエレンの町
ともあれ、検問を終えた馬車はシエレンの町へと入っていきます。
最初にわたしはメンバーの役立たず、と言いましたが、それは魔物との戦闘時のことです。
このパーティーの旅で、私の活躍の場は確かにあります。
完全に裏方のお仕事ですが、この旅における金銭や物資面でのサポートが私の役目です。
勇者パーティーの盲腸とか色々と言われますが、それでも結構重要な役目だと自負しています。
この世界でも、何はなくともお金。
勇者ご一行といえども、お腹は減りますし、疲れたら眠くなります。服も着ます。武具の手入れも必要。食料、宿、武器防具。それらのものを得るには当然お金が必要になりますし、その管理ももちろん重要です。
また、王国の外に出たら、一応祖国の王様の紹介状や旅の通行証を持っていますが、全てが万能ではありません。
どの国にもルールややり方がそれぞれあり、その手続きや交渉は煩雑です。
それらを全て勇者様がやると、もう冒険、魔物討伐どころではありません。
魔王を倒す旅に出ているといって歓迎してくれる街や村の人々もいますが、よそものがきたと忌避されたり、魔王の襲撃におびえて出て行けと言われるときもあります。
まさか勇者パーティーが狼藉を働いたり、村人や街の人を脅かしたりするわけにもいきません。
そういう時にも頼み込んで、宿に泊めて貰ったり、物の調達をします。
どんな高尚な理想も戦いや旅もお金がなければ絵に描いた餅です。
それらを引き受けるのが私の役割です。
ただし、商人系のスキルで参加とはいえ、勇者様との旅では私は物を売ったり買ったりして利益を追い求め、商いをするわけではありません。
普通の旅の商人と違います。
あくまでも勇者様が旅でお金の心配や細かい手続きに煩わしくならないように、バックアップするのが役割です。
なので。
私は普段、戦いに参加することは無く、他のメンバーも戦うことは求めません。
あ、でも本当にまずい時は私も最後に出て行きます。
一応は訓練はしています。旅立つ前の一週間ほど、剣の持ち方や振り下ろし方などもやりました。
でも私が出ていくときと言うのは歴戦手練れの戦士や魔法使いたちがやられてしまった時なので、私が出ていってなにができるというのでしょうか。疑問には思っています。
これまでそういう状況に陥ったことはありませんが、これからはわかりません。
考えたくもないですね。
本音では、常に勇者様に帯同し、華やかな舞台にも出る機会の多い魔法使いさんとか戦士さんがよかったと思うときもあります。洞窟の中を冒険して、お宝発見なんて、いかにも勇者の旅っぽいことも、この職ではほとんどありません。大抵、そういうことになったら外や宿でお留守番です。
でも決してやることがないわけではなく、わたしは戦闘のない時こそ私のお仕事の場面なのです。
そっと袖の下を通す、こういうのも私の仕事。
またこの大陸の共通言語のエリナス語は大抵の国で通じますが、どうしても通じない小さな民族や地図に乗っていないような集落ではわたしが身振り手振りで交渉します。
お金が尽きてきたら、魔王討伐の寄付を募ったり、困っている人の手助けをして報酬を得る。そういう仕事探しもします。
ゆく先々でお金が絶えないように、常に先を考えます。
だから、別にパーティー内でそう邪険には扱われませんし、お金の管理については、時に勇者様よりも立場が強い時もあります。
検問を終えて町に入りましたが、さらにそこから賑わいのある市街までは少しあります。
「おーい、もうすぐシエレンの市街に付くぞ」
勇者様の声が馬車の外から響きました。
見た目は好青年ですが辺境から出てきた田舎者です。ちょっと楽天的な性格に難がありますが、悪い人ではありません。
「やったあ、ようやく街に到着かあ」
「おいしい食べ物あるかなあ?」
「何して遊ぼうかしら」
女性だけの車内に沸き立つ声を聞きつつため息をつきます。
残りがどれだけお財布袋の中に残っているのかを考えると他のメンバーの皆さんのようには陽気にはなれないのです。
まあ、ここ数日はずっと野宿だったために久しぶりの街で羽を伸ばしたくなるのもわかる。
わたしだって冷たい池の辺で水浴びぐらいしかできなかったから、お風呂に入ってゆっくりしたい。
けれどもーー路用のお金が心許なくなってきているのでした。
「皆さん、まずは宿の選定からです」
道行く町の人に宿街がある場所を聞いて、そこへ向かうことにします。
「皆さん、遊びはほどほどに……お金は限りがありますから」
一応無駄だとは思いつつも引き締めはしておく。
「はーい」
「わかってるって、もうエレーナは堅いんだから」
やがて西の方角に、市街を取り囲む城壁が見えてきました。
まだまだ日は高いのでやるべきこともやらないといけません。
ほどなくして、我が勇者パーティーは無事に街につくことができました。




