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24 夜襲? 

 ぴいいん。ぴいいいんという魔除け笛の音が寝静まっていたはずの森に響きました。

 その空気を切り裂いて轟く独特の音色は眠りについていたわたしたちの目を覚まさせます。


「これは!?」


 離れたところから、ルビーさんの吹く笛の音です。襲撃の合図です。

 皆さん、旅を続けているうちに、どんなに寝入っていても、急を知らせる笛の音を聞けばすぐに飛び起きることができるようになっています。

 寝間着などはもちろん着ていませんし、外套を羽織るだけ。

 剣や杖などは、すぐに取れる位置に置いています。


「いくぞ!」


 勇者様を先頭に無言で飛び起きて、すぐに戦闘態勢に移ります。

 シルヴァさん、マリーさん。

 流石、勇者一行として旅を続けている貫禄があります。

 お互い会話を交わさなくとも次の行動に移れるのです。

 かくいうわたしも飛び起きて、テントの外に出ます。

「ふわ……」


 でもわたし、寝起きが苦手なんですよね。夜目も利かないし。

 でも気合を入れてわたしの剣……。


「ああ、エレーナは無理してこなくてもいいぞ」


 先に行った勇者様のひとことにずっこけるわたし。

 まあ、いっても役に立たないことわかってますけど。

 マリーさんが手袋忘れたみたいなので一応届けがてら出撃。


「ルビー、やつらはどこだ?」


 見張り場へ駆けつけると、すでに臨戦態勢。勇者様はルビーさんの背後を守り剣を構えています。

 お互い背を向けて、背中を預ける体勢を取ります。流石、前衛キャラの阿吽の呼吸。


「あの辺りだよ」


 月明かりの届かない深い木々の向こうを指さしました。

 結界にひっかかって驚いて一旦退いたけれどもまだこっちを伺っているのだそうです。


「影がいくつも蠢いてこっちを伺ってるよ」


 ルビーさんは視力がとても良く、夜目もききます。洞窟なども冒険探検する戦士ギルドの方は大抵そうなのですが。


「あそこか……」


 勇者様も見えるようです。田舎の勤労青年でしたから。五体も五感もとても満足です。

 後から追いついたわたしには見えません。

 じーっと見つめても、眼鏡の向こうにもみえません。

 

「どうぞ……」


 とりあえず膠着状態のうちに、そっとマリーさんにお忘れされた手袋を渡します。無言でうなづいて受け取ってくれました。

 次の瞬間、バシっと稲妻のよう光が周囲一体に走りました。


「わあっ」


 情けない声はもちろんわたしの声です。

 一瞬目も眩みます。

 侵入者が強行突破しようとして結界の雷撃に倒れた音です。

 あたりに肉の焼ける焦げたような臭いが漂います。


 また結界が破られた音でもあります。

 シルヴァさんの結界は残念ながら、万能ではありません。第一撃を防ぐことはできますが、すぐに破られます。

 結界の意味合いは、第一撃を回避して、そのうちに戦闘準備を始めるのです。

 ルビーさんが結界が破られる前に夜襲に気づいたのは大手柄です。

 今回は準備の時間がたっぷりあったので、対策も十分取ることができたのです。


「母なる精霊よ、大いなる慈悲の光をーー」


 法服姿に着替えたマリーさんがホーリーの術を使います。

 闇夜での攻撃で一番厄介な死霊系の魔物には非常に効果がありますが、そうでない相手でも、辺りを照らす効果があります。

 照明弾のようにぱあっと頭上に丸い白い光を放つものが、打ちあがります。

 辺りが白く明るく照らされます。

 森の木々も照らされて昼のよう。

 それに伴って襲撃者の正体が晒されました。

 地面に蠢く動物たちが何匹か。


「うおおおおん」


 遠吠えがこだまします。

 明らかにホーリーの光に怯んだようです。


「うおりゃああ」


 かけ声と共に、勇者様が飛びかかってきた影を2、3匹切り捨てました。ざしゅっと切る音と獣の潰れるような声が聞こえます。

 手応えありです。

 既に気配から察していましたが、死霊などではなく、獣系の特性を持つ敵です。

 もちろん、皆さん、それに応じた戦いを開始しています。


「そこだっ」


 ルビーさんも手に持っていた短剣を気配のした方へ投げつけます。

 ぐぎゃ、という獣の悲鳴が聞こえました。

 こちらもクリーンヒットしたようです。


 シルヴァさんも出番に備えて二人の後ろに控えています。

 いつでも魔術を放出できるように。

 おそらく火系でしょう。


 数度剣を交えているうちに、襲撃が止みました。

 さっきまで満ちていた殺気がピタッとなくなり穏やかな空気に変わりました。


「ふう……」


 皆さんの緊張が徐々に溶けてきました。

 勇者様、ルビーさんのお二人が、徐々に前へ進みます。

 倒れている襲撃者の亡骸を確認しました。


「見て見ろ、みんな」

「もう大丈夫だよ」


 一匹の頭部を鷲掴みにして、松明を照らします。

 そのシルエットは毛に覆われた四本脚の動物です。

 犬、もう少し獰猛さがあります。

 どうも狼の襲撃だったようです。


「ああ、よかったですね」


 安堵の空気が流れました。

 戦闘終了。


 襲撃はあっけなく終わりました。

 野に住む狼の群が、こちらに攻撃を仕掛けてきたもののようです。

 この大地を行けば、野生の生き物の脅は、よくあることです。

 とはいえ最近の狼も魔物が跋扈した影響を受けて凶暴化して危険ではあります。

 今回は何匹か倒したら、残りの群はあっさり逃げていったので本格的な襲撃にはなりませんでした。

 なおわたしは終始何もしませんでした。

 ただじっと岩影に身を潜めていただけでした。


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