19 結局旅立つことに
勇者様の旅に道具士として参加する。
どうせ、私には無縁の話。そう思った一月ほど経った頃のことでした。
15歳の時に組合長でもあり雇い主であるグリーンパースさんから直々に呼び出しを受けました。
身に覚えがないのでなんだろう、と思いつつ。
組合長の部屋に入ると、なにやら長が難しい顔をしています。何か仕事でミスったのかと思いましたが違いました。
「エレーナ・カタリス、君にお願いがあるんだが……」
「はい、なんでしょう」
なんでも王様直々に、商人の誰かを使わして、勇者一行の金庫番を勤めよとの命令を受けているそうです。
「ああ、あの話ですか。それで、どうしたんでしょう?」
ここまできても、まだ私は気づきませんでした。
「適任者が君しかいない、行ってくれないか」
組合長がいいました。
「え」
三十秒ほど沈黙しました。
「勇者様と魔王討伐を共にする旅だ。君しかない」
魔法使いや戦士のスキルの人にとっては憧れ、大変な名誉です。
もちろん、商人スキルにとってもそれ相応に名誉ではあります。
でも他にやりたい子たちがいたはずです。
なぜわたしが? と疑問はますばかり。
自分が押し退けて抜擢されるのが当然と思うほど、そこまでうぬぼれてもいません。
「エレーナ、今度王国が派遣する勇者様のパーティーに加わってくれ」
もちろん、辞退を申し上げました。
もし旅をするとなったら、それこそ年単位での時間がもってかれてしまいます。興味もないのにこれは辛い。
「いえいえ、ちょっと待ってください。どうしてわたしなのでしょう? 他に偉大な先輩たちもいたみたいですが……」
商店で修行を積み、少しは自信もついてきましたが、まだまだ経験を積まなければいけない。わたしは勇者パーティーについて、そこまで魅力的なものとは思っておらず、素直にハイそうですか、とはなりません。
「実はな……君が今挙げた者たちを最初は推挙しようとしたのだが……」
家族に説得されたり、恋人に想いとどめられたり。
特に道中魔物や悪魔の危険に晒されることがネックだったようです。
まったく畑違いですから。
「危険がつきまとうということでな……悪魔が平気な君が適役じゃないかと」
ここで悪霊憑きのエレーナ、急浮上。
このところすっかりなりを潜めていた、またその名前が復活してしまいました。
わたしのおっさん前世と魔王討伐になんのつながりもないのに、悪霊つながり。
「わたしのあだ名と関係ないんですが……」
ちょっと強引。とばっちりです。
組合長も流石に強引と思ったかもしれません。
「それはそうだが、まだ国の中しか知らない君にとっては、外の世界をみるまたとなチャンスだと思うが」
ここまで食い下がられてしまうと、断れません。私自身、組合と組合長には育ててくれた大きな恩があり、それをむげにすることはできないのです。
あと理由で考えられるのは孤児院出身ぐらい。
確かに孤児院には商人ギルドも多大な寄付を行っており、またその後の養成学校も費用を負担していて、恩は限りありません。
「行ってくれるか」
「はい、まあ」
結局、貧乏くじを引いた形になりますがお受けすることにしました。
勇者様の一行に加わることは、それはそれで名誉なことではあります。
「しっかりいろんな人と出会ってこい」
「はい」
また見聞を広める、機会であることも確かです。見聞を広め、世界をこの目で見て、さらに人とのつながり、要はコネを作ることは有意義なことです。
(まあ、しょうがない)
ため息一つついて引き受けることにしました。
……もし世界を旅をするならば、わたしにはやりたいことがありましたし。
わたしが何故この世界に転生したかの理由です。
唐揚げ弁当買って帰ったら異世界に転生してたでは、しっくりきません。
背中に何か取れそうで取れないものがくっついている違和感があってしょうがないのです。
せっかく世界を旅するのなら、それを探してみるか。
以上、わたしが勇者様一行に参加した経緯です。




