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14 勇者様を元気にしたい

 勇者様は森の闇に消えていきました。


「最近、勇者様の様子が変わってないでしょうか?」


 ここ最近わたしが思っていた疑念を皆に伝えました。

 残ったものは皆でわけあいました。


「え? そうですかな」

「まあ、そう言われればそうかねえ」

「ご飯も最近は別々ですよね」


 結構同意を得られました。

 食事も、自分でお皿を抱えてどこかへ行ってしまいます。


「何故ここ最近、このパーティでたるい空気が漂っているのか……何故勇者様は最近一人でいることが多いのか……考えないといけないのでは」


 わたしの提案に三人とも顔を見合わせました。


「そういえば、最近勇者様、一人ですね」

「でもまあ、勇者様がそうしたいっていってるんだし」

「別に身に覚えは……」


 三人は、事態の重さに気づいていないようです。

 なので切り出します。


「わたしたちにも責任があると思います」


 前世の知識があるからこそ、わたしにはわかる。

 ヒロイン不在。

 こういうRPG的なファンタジーには、ヒロインとイベントが必要なはずです。

 でもこのメンバー女性全員、恋愛というものと完全な無縁。当然わたしも含まれています。


「え? どうしてうちらが?」


 もちろんこちら側世界の女性お三方には、わたしの危機感が伝わるはずがありません。


「誰かが勇者様のお相手を……」

 

 そして猛烈な反対が始まりました。

 女戦士さん。

「そんなこといってもねえ、今は酒があればいいし」

 女魔法使いさん。

「そんな時間ないですよ、今空いてる時間でアイテム合成を試してるのに……あと一週間もやれば完成するんです」

 女聖職者さん。

「神にささげたこの身をそんな俗世な物事に怪我すわけにはいきません」


 駄目だこりゃ。


「旅が始まった頃には、勇者様は確かに凄く元気が良かったような気がしますけど……」


 シルヴァさんが、ポンと手を打ちます。

 このことに気づいてくれることを待っていました。


「そう、それです。思い起こしてください」


 勇者様、おっぱい星人だったじゃないですか。

 あらためて問題提起をします。


「リック君のようなことになったら大変ですよ」


 皆に危機感を伝えるため、ある一人の方の名前を出しました。


「リック? あいつと勇者様は違うだろう」

「我が勇者様はあの人とは別ですよお。買わなくても鉄仮面を装備していますからね」


 変なところで仲間から信頼されてる我らが勇者様。


 リック君。

 名前はリカルド・ランドベリ。

 しかし、その名前を口にするのは、このパーティーでははばかられます。

 その名を口にすると、苦笑いが皆から漏れてきて、なんとも言えない空気が流れるからです。

 リック君とはグラスタニア王国騎士団からこの一行に加わったメンバーでし「た」。

 愛国心溢れ、また理想に燃える騎士道精神の固まりのような青年でした。(過去形)


「我が一行は単なる仲間ではない。血では結ばれていないが絆で結ばれた兄弟だ」

 と少し空回り気味の情熱でパーティの中で強烈な個性を持っていました。

 体格もよく暑苦しい体育会系でした。

 そして、女性に対しても優しいし、この魔王討伐のための勇者パーティーへの参加を大いに喜び勇んでいました。

 私にもエレーナ殿、エレーナ嬢と呼んで丁寧に接していただき、感心した反面、赤面したものです。

 けれども強すぎる愛国心が裏目に出ました。

 グラスタニア王国を離れて、しばらくしたら日がちに、食事も細り、口数も少なくなっていきました。

 

 望郷心が募ったのか。

 王国名物のゴロゴロ鳥の丸焼きが食べたいとか、王城を望む湖と山の景色が恋しいとかいいはじめました。

 いわゆるホームシックです。

 口数も少なくなり、鬱になってしまいました。

 ついに途中の宿で寝込んでしまい、そこから故郷へ帰すことにしました。


「この私に構わず先を急いでくれと」


 もちろん、言われずとも構わず先をゆきましたが、一応胸を打つ別れをしました。

 魔王を倒した暁には、必ず故郷へ戻ってきてくれなどなど。

 最後まできざなところは変わりませんでした。

 下位職のわたしが離脱するタイミングが遅くなっている一因でもあります。

 そして、勇者様が彼と同じようになったら一大事。

 パーティーの解散。旅終了。

 まあそれでもわたしは帰ることができるのでいいですが、不名誉なことは不名誉です。

 なるべくなら、避けたいもの。


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